まだ世にない新産業を打ち立てるスタートアップ。そこには、投資家へのプレゼン、採用など、さまざまなフェーズで自分たちの事業の軸を伝える言葉が必要になってくる。スタートアップ界に言葉を提供するサービスを行う取り組みをレポートする。
広告の「プロトタイプ」を納品する
電通は昨年11月、スタートアップ、ベンチャーキャピタル、大企業の新規事業などを対象に、コミュニケーションデザインのプロトタイピングを支援するサービス「TANTEKI(タンテキ)」をスタートした。「スタートアップは、新しすぎて、熱すぎる」ことがコミュニケーション上の課題になっていると、TANTEKIのコピーライター 鈴木契さんは言う。
「スタートアップには、とにかく新しいことを思いついたから俺はやりたいんだ!とか、これで社会の課題を解決するんだ!と燃えている人が多いんです。ただ、その新しさだったり正しさは、普段から顔を合わせているコミュニティの人たちや文脈を共有できる人には伝わっても、その外のコミュニティの人たちと話をすると、途端に伝わらないということが起きやすい。一種の成長痛みたいなものだと思うんですが、その痛みを感じる一瞬に我々のニーズがあるということが、スタートアップの方々と触れ合う中でわかってきたんです」。
最初は、京都のベンチャーキャピタルのブランディングの仕事だった。その縁で、スタートアップの起業家たちに自分たちの事業の伝え方をアドバイスしたところ、予想を超えて感謝された体験がTANTEKIの立ち上げにつながった。「ベンチャーキャピタルは、常日頃スタートアップに経営的なアドバイスはしているんですが、マーケティング、ブランディングに関しては教えられる人がいない状況でした。そこで我々の知見が役立つということなんです」。
もちろん、起業したてのスタートアップは広告を打つ段階にはまだない。そこで、TANTEKIが提供するサービスは「広告(コミュニケーション)のプロトタイプ」だ。「当然オリエンもないし、何を作ってくださいとも言われない。たいがい、悩んでます、困ってますというところから始まって、じゃあ一度広告っぽい形にしてみましょうかと。気分的には、新聞の15段を作る気分に非常に近いです。すると自分たちのやっていることを客観的に見ることができて、すごくスッキリする。スッキリしました、と晴れやかな顔で帰って行くのを見るのがこちらも嬉しいんです」 …