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カンヌライオンズから分析 世界の広告 手法と切り口

マーケティングの潮流を読み解く3つのキーワード

吉澤 到(博報堂)

カンヌライオンズの期間中に行われるセミナーの数は、5日間でおよそ400。全日程にわたってフルでセミナーに参加した博報堂の吉澤到さんに、そこから見えたマクロなトレンドを解説してもらった。

The Economist誌主催によるCMO3人の座談会。P&G、Mars、Mastercardからマーケティング最高責任者が一堂に会した。

逆境の中で幕を開けた2018年のカンヌライオンズ

一年前の2017年6月、Facebookのフィードを流れてきたある業界誌の英文記事に、ふと目が止まった。それはエージェンシーを中心にカンヌライオンズへの膨らみ続ける出費に批判が高まっているという内容だった。記事によれば、クライアントのマーケティング予算削減、クリエイティブのインハウス化、デジタル専業エージェンシーとの競争激化などにより、欧米のメガエージェンシーは軒並み収益が悪化しており、広告賞を含めたコストの圧縮を迫られているという。

その数日後、Big Sixと呼ばれるメガエージェンシーの一角、ピュブリシス・グループのアルチュール・サドゥーンCEOが突然、翌年のカンヌへの参加を見送ることを発表。マルセル(Marcel)と呼ばれるAIプラットフォームの開発に、投資を振り向けると公言し、業界を騒然とさせた。さらに、WPPの前CEO マーティン・ソレル氏もカンヌの高すぎるコストに批判を展開。慌てたカンヌライオンズの運営会社は半年後に大幅な改革案を打ち出さざるを得なくなった。

しかし、カンヌライオンズの混乱は、その後も続く広告業界の大波乱の予兆に過ぎなかった。今年3月にはFacebookの個人データ不正利用問題が発覚。4月にはソレル氏が不正疑惑を問われてWPPのCEOを辞任した。直前のカンヌ国際映画祭では「#MeToo」ムーブメントが再び盛り上がりを見せ、ジェンダー不平等も含めたクリエイティブ産業全体の問題を浮き彫りにした。そうした「パーフェクトストーム」の状況下、2018年のカンヌライオンズは幕を開けたのである。

マクロのトレンドを掴むにはアワードよりもセミナー

実は、私自身カンヌの地を訪れたのは十数年ぶりのことだ。だから、ここ数年の変化がどうなっているか、といった話はできない。ただ、現地で感じた率直な印象は、カンヌはかつてのような「広告業界のお祭り」から「マーケティング業界のダボス会議」にすっかり様変わりしているということだった。こうした変化は日本にいるとなかなかわからないものだ。

カンヌに関するレポートや記事の多くがいまだアワードの受賞結果ばかりに偏っているせいもある。受賞結果を見て、今年の傾向はどうだったとか、日本の受賞作品が今年は少ないとか、分析することも大切だが、実はアワードだけを見ていてはマーケティングのトレンドやビジネスの動きは見えてこない。もっとマクロの変化をつかまえるには、世界中から集まるマーケティングやクリエイティブ関係者の生の声を聞くこと、つまり、セミナーを見るのが近道である。

今年のカンヌでは5日間でおよそ400ものセミナーが行われた。Google、Facebook、Amazonのようなプラットフォーマーから、P&G、ユニリーバ、Appleのようなグローバルトップ企業、アリババ、テンセントなどの中国系IT企業まで、CMOクラスの人たちがひっきりなしに登壇し、現在起きているマーケティングのリアルを語ってくれる。こんな貴重な機会は、カンヌでなければ得られないだろう。だから、月曜から金曜までの5日間、私は昼食も取らず、朝から夕方までセミナーを見まくった(それでも見られたのは、全体の10分の1以下である)。

P&Gマーケティングトップが語る「マス・ディスラプション」とは

今年を象徴するセミナーとして、個人的に一つ挙げたいのが2日目の朝、カンヌライオンズ・ビーチで行われたThe Economist誌主催によるCMO3人の座談会だ。P&G、Mars、Mastercardという世界的企業からマーケティング最高責任者が一堂に会した。冒頭、P&Gのマーク・プリチャード最高ブランド責任者が、いま我々が直面している状況を「マス・ディスラプション」という言葉で表現した。プリチャード氏によれば「マーケティングは今、ディスラプション(創造的破壊)にさらされている」という。

「それは、マス・マーケティングの創造的破壊であり、Massive(巨大な)スケールの破壊だ。私たちは、ブランドを築くための根本的に新しい方法を発明しなければならない。それも今すぐに」(プリチャード氏)。

プリチャード氏と言えば、昨年デジタル広告の透明性を問題提起するスピーチで話題になった、今マーケティング業界で最も影響力のある人物の一人だ。その発言を受けて、Mastercardのラジャ・ラジャマナーCMOが続ける。「広告はもはや過去のものだ。生活者は(広告によって)邪魔されることを嫌う …

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