カンヌをはじめ海外広告賞を自分の企画に生かしている人は、どのように分析・解釈を行っているのか。カンヌにこれまで複数回参加している、電通 嶋野裕介さん、ワントゥーテンデザイン 小川丈人さんTBWA\HAKUHODO 細田高広さんの3人にそれぞれの分析を持ち寄り、話してもらった。
カンヌ受賞作から分析 10の手法・切り口
01.Smart Hacking(Platform Hacking)
02.UnStereotype
03.Redesign Government
04.Branded Social Good
05.Soundize
06.Logomunication
07.Realtime Response
08.Supportership
09.Social Activation Film
10.Mass Mattering

大義が大きいほど「みんなごと化」していく
小川:僕は8年連続でカンヌに行っているんですが、今年参加して、2014年にP&Gの最高ブランド責任者のマーク・プリチャードさんが話していたことを思い出したんです。「あなた(ブランド)があなたのことを語っていないにも関わらず、みんながあなたを語っている状況の創造。それが広告を刷新する方法だ」というものです。それを「Mass Marketing to Mass Mattering(みんなごと化)」と昨年のセミナーでBBDOのCEOが表現していたんです。
世の中の本当の課題解決につながるものじゃないと戦えなくなってきているんだなと感じます。SDGsは策定されたのは2015年でしたが、ここ1年ほどで企業が強く意識するようになりました。それはつまり、「このままだと地球壊れちゃうけど、壊れないためにあなたの会社は何してるの?ちゃんとやってるの?」という大きな問いかけがなされているということでしょう。
「The Talk」も、このMass Mattering(みんなごと化)の流れの中にあるCMだと思います。ひとつもP&Gの商品は出てこないけれど、姿勢を強く打ち出したことで、ブランドに注目を集めることに成功している。お母さんをサポートすることが我々のブランドの誇りです、というメッセージは「Thank you,Mom」の広告とつながっています。
嶋野:「The Talk」はアメリカの黒人差別の問題を扱っているCMだと思っていたので、アメリカの国内広告賞ならいざ知らず、なぜ国際広告賞のカンヌでグランプリなのかが正直不思議だったんです。お2人はどうですか?
小川:P&Gは「P&G everyday」というオウンドメディアを運営していて、そこに家事や料理のTipsに混じって「My Black is Beautiful」というコミュニティがあります。お母さんたちが解決したい最大公約数的なトピックを取り上げてみんなで話し合う場です。このタイトルからわかる通り、黒人だけの個別の問題ではなく、バイアスと戦うという大きな問題を打ち出している、ということだと思います。
細田:確かに日本人には肌感覚として捉えづらいところです。LGBTQや人種、男女不平等などの問題にマーケティングで触れるのは、日本だとまだ「あえて」「特別なことを」「狙って」やるという空気があります。欧米はもっとあっけらかんとしていて「みんなが一番関心を持っていて議論したい問題なんだから、企業がそれらを題材に広告をつくるのは当然だよね」というスタンスです。
極端に言えば、日本人がAKB48の総選挙を広告のネタに使うような感覚で、彼らは社会問題を扱っている。「The Talk」は僕も、小川さんからマーク・プリチャードの話を聞いて、やっと腑に落ちました。
小川:彼は今年のセミナーで、「向こう5年間でジェンダー平等を達成するためにメディア、クリエイティブを牽引する存在になる」と言っていました。そう表明すること自体が、ブランドとしての姿勢を表していますよね。それが広告の大義を突き詰めたひとつの姿だとしたら、その対極にあるのがバーガーキングの広告じゃないでしょうか。
ターゲットの人たちが抱えている不快な気分や不満の元に対して、バーンと体当たりしている。ルーマニアには空港の中にしかバーガーキングがなくて不満だ、と聞けばみんなが空港の中まで買いにいけるキャンペーンを考えたり。両極ですが、どちらもMatteringの形なんだと思います …