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地元の魅力は自分たちの手でつくる クリエイターと地域の新しい関係

和歌山で楽しく働く 大人が集まる理想の商店街

Arcade

人口約5万人の小さな町、和歌山県海南市で年に一度開催されるマーケットイベント「Arcade」には、2日間で約1万人が訪れる。イベントを企画したのは、和歌山県にU・Iターンをした建築家やデザイナー、編集者など、若手のクリエイターたち。そのコンセプトは、“仮想の商店街”。学生時代に時間を過ごした地元和歌山の商店街での体験が原点にあるという。

ARCADE PROJECTとボランティアスタッフの皆さん。

「商店街って面白い」 学生時代の体験が原点に

2015年より開催されている「Arcade(アーケード)」は、和歌山県やその周辺から、飲食店やインテリア雑貨店、ワインや日本酒の専門店など約40店が集まるマーケットイベントだ。和歌山県海南駅前の広場で、毎年10月に開催している。特徴的なのはその空間演出で、建屋からオリジナルで設計し、設営も自分たちで行っている。1日かけて設営し、イベント終了後また1日で撤収するという独特のスタイルも話題になっている。

現在のArcadeを企画・運営するのは、和歌山県にU・Iターンをした建築家やデザイナー、編集者など7名のクリエイターからなる「ARCADE PROJECT」のメンバーだ。始まりは、仲間内での酒の席で上がった「スケボーイベントがやりたい」という声だった。

「海南駅前に大きな広場があるのですが、普段は何もなく、誰も足を止めない場所になっていて。ここで何か面白いことをやりたいという話で盛り上がったんです。その場には、建築家、鍛治屋、飲食店オーナーなど和歌山を拠点に自ら仕事をつくる30代を中心とした顔ぶれが集まっていました。学生時代に和歌山で感じたストリートカルチャーを思い出しながら、最初はそんなフワッとしたアイデアからスタートしました」と立ち上げ初期からのメンバーである建築家の柏原誉さんは振り返る。

だが、企画書をまとめて市役所に持っていくも、「公益性のない企画を開催するのは難しい」とあっさり断られてしまう。「ではマーケットを入れ込んで、お年寄りから子どもまで楽しめるものにしよう。それなら、どんな店を呼びたい?」とここで初めて街に足りないコンテンツを真剣に話し合ったことが、Arcadeに発展した。手はじめに、自分たちが影響を受けた和歌山のキーマンをリストアップすることから始めたという。

「飲食店、クラフト、アーティスト、デザイナー、カメラマン、編集者など、街が発展するのに不可欠なキーマンを挙げていき、この人たちが出店者や運営者として一堂に会する、仮想の商店街のような企画へと発展していきました」。

なぜ、「商店街」だったのか。その背景には、立ち上げメンバーの原体験がある。

「高校生や大学生の頃、商店街は"行けば面白い何かが見つかる"場所でした。古着屋に行ってレコード屋に寄り、次に服屋さんに行ってと、必ず何店舗かはしごしていました。当時の商店街には、東京でも扱っていないようなストリートブランドをいち早く扱う尖った店があったり、古着に詳しくてセンスの良いおっちゃんがいたりしたんです。今振り返れば、あの頃の出会いは重要でした。それがあるかないかで、地元に対する愛着が違うから。そういう体験がなければ、県外に出ても、いつか帰ってこようという選択肢が生まれない。ショッピングモールやネットで買い物をする今の若い子たちにも、そういう機会を作れたらいいなと思いました。だからこのイベントに一番来てほしいのは、高校生や大学生なんです」。

柏原さんたちがこだわったのは、今ある商店街を変えることではなく、商店街を自ら作ることだった。「商店街の空き店舗を使う試みは、既に色々な人がしています。僕たちは、理想の街の縮図を見せることで、和歌山の可能性を発信したかった」。"仮想の商店街"というコンセプトが決まってからは、商店街にほしい店舗をラインナップしながら構想を固めていった。

和歌山県海南駅前で行われるArcade。木製パレットを組んだ特製の建屋を使って開催する。飲食店や雑貨店など約40店が集まる。

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「とはいえ、イベントとしては完全なる素人集団。どうやって役所とやりとりしたらいいか、お金の管理、役割分担、みんなわからないところからのスタートだった」と柏原さんは振り返る。その中で、なぜこれだけのイベントを実現できたのか? …

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