今年5月、神戸にオープンした「KITANOMAD」は、地場野菜が買えるショップやカフェ、シェアオフィスが一体化した複合施設。仕掛け人の小泉寛明さんは、ここを「ローカルの仕事を生み出す人たちの交流の場、ローカル経済が循環する場」として育てていきたいと話す。
「地産地消」「アウトドアフィットネス」「シェアオフィス」が三大要素
異人街で知られる神戸の北野エリアの中心部に、ヴィンテージマンションをリノベーションした複合施設「KITANOMAD(キタノマド)」が登場したのは今年3月。5月より本格オープンし、営業を開始した。
1階に入るのは、地元の生産者が作る神戸産野菜を販売するグローサリーショップと、その食材を使った料理を楽しめるカフェ。2階には、神戸への移住者やフリーランサーのためのシェアオフィス、そして六甲トレイルランなどのプログラムを提供するトレイルランニング兼ヨガクラブが入っている。ほかにも、アーティストの工房や写真館、レストラン、アートブックを取り扱うショップなどが入居する。
このKITANOMADを手がけたのは、神戸R不動産の小泉寛明さんだ。そもそもの始まりは、2011年4月に神戸R不動産を立ち上げ、"脱東京"をテーマに、神戸への移住を呼びかけたことだったという。
「僕は兵庫県生まれの大阪育ちで、東京での大手デベロッパー勤務を経て、神戸に移り住みました。神戸は東京や大阪へのアクセスもよく、自然が豊かで、気質もオープンな住みやすい街です。震災直後は行き過ぎた資本主義や、極度の東京集中に疑問があり、東京以外の住む場所の選択肢として神戸を提示したいという気持ちがありました」。その結果、イラストレーターやプログラマなど、場所を選ばずに働くノマドワーカーたちが、まず移住してくるようになった。
その動きをさらに加速させるため、小泉さんは移住者向けに神戸の魅力的なお店やスポットを紹介する地図「KOBE MAP for NOMADS」を2013年に発刊。すると今度は建築家や編集者など、ノマドではなく、地元の企業と関係性を築いて仕事をするタイプのクリエイターたちが移り住んできた。
「彼らから『シェアオフィスがほしい』と要望を受け、また彼らがローカルと接点を持つための場づくりをする必要があると感じて、自宅をDIYして、"移住者のための事務所"と称し、シェアオフィスとして貸し出すことにしました」。すると狙い通り新たな交流が発生し、移住者と地元企業のコラボレーションが実現したり、入居希望者が増えたりと、好循環が生まれたという。
「当時のメンバーは順調に会社が大きくなって、今では自立して自分の事務所を構えている方がほとんどです。その経験から、人が移住したり、起業する時には、宿木のようなスペースが必要なのだと感じました。こうしてシェアオフィス運営を細々と続けてきたのですが、スペースが狭かったので、大きな場所に移転しようと新たな場所を探していました」。
KITANOMADの2階のシェアオフィスは、それが実現したものだ。以前の約3倍の広さとなり、共有部スペースも充実した。コンセプトは以前から変えず、神戸への移住者もしくは神戸市内で起業した人を優先に貸し出している。
神戸に住んでいるのに神戸で作られた野菜が買えない?
1階の野菜のグローサリーショップは、また異なる経緯で生まれたものだ。あまり知られていないが、神戸は実は農業が盛んで、六甲山脈を境に南は都市部が広がり、北には農村が広がっている …