IDEA AND CREATIVITY
クリエイティブの専門メディア

           

「食」の老舗企業の挑戦 ブランド開発とクリエイティブ

老舗のポテンシャルを最大限に引き出すデザインリニューアル

「上から読んでも山本山。下から読んでも山本山。」のフレーズで知られる山本山。現在日本橋本店のリニューアルとリブランディングを進めている。

リデザイン後の既存商品のパッケージデザイン。

日本橋再開発を起点にプロジェクトがスタート

1690年(元禄3年)創業で328年の歴史を持つ山本山は、お茶と海苔を主力商品とする老舗企業だ。同社は3年前、本店のある日本橋エリアの再開発に伴い、本店をリニューアルすることに決めた。その担当を任されたのが、同社取締役副社長でアメリカ法人を統括する、創業家の山本奈未さんだ。

現在31歳の山本さんは、3年前に父である現社長から「新しい本店の設計をすべて君に任せる。自分の好き嫌いではなく、50年、100年後も先端でいられるセンスをもって作ってくれ」と言われたという。「特に店舗設計の経験があったわけではないですし、会社として外部のクリエイターと組んで仕事をした経験もない。最初はどうしていいか途方に暮れました」と当時を振り返る。

その頃偶然出会ったのがデザインファームbiotopeの佐宗邦威さんだった。「相談を持ちかけたところ、まずは本店設計のコンペをしましょうという話になったんです。本店のコンセプトは"体験の場所"にしようと決めていました。ガラスケースに商品を置いてどうぞ買ってくださいと言っても、31歳の私と同世代の人たちは、そもそもお茶と海苔を現代の食生活にどのように取りこんでいいかがわかりません。それを具体的に伝えるための"飲んで食べる、体験の場所"にしたいと思っていました」。

コンペに参加した1社がNOSIGNERだった。同社代表の太刀川英輔さんによるプレゼンは、店舗設計というよりも事業計画に近いものだった。例えば、海苔をその場で巻いて食べられるおにぎり屋の併設や、江戸文化を代表する老舗らしいパッケージへの転換などがその内容だった。実施まで3年という時間の余裕があることを考慮し、リブランディングや新事業の開発も含めて提案したのだった。

結果、店舗設計は他社に決まったものの、太刀川さんには商品デザインの一新が依頼され、店舗と並行してソフト面のリブランディングプロジェクトを進めることになった。

煎茶のパッケージは種類ごとに日本の伝統色で色を分け、一目でお茶の産地がわかるようにした。

煎茶のパッケージは缶の周囲に巻物のように説明書きが巻かれている。美味しいお茶の淹れ方や山本山の歴史、その英訳が記載されている。

ティーバッグタイプのお茶。屋号ロゴは、英語と組み合わせを念頭にリニューアルされた。

歴史をひもとけば実は煎茶の「本流ど真ん中」

ソフト面で山本さんが感じていた課題は主に3つあった。

「1つはデザインです。山本山の企業ロゴと屋号のロゴが混在していたり、"上から読んでも下から読んでも"と言っているのに『山本山』が横表記になっていたり、ロゴのルールを明確化する必要がありました。また、今後の海外展開を見据え、すべてのツールをバイリンガル表記にすることもかねての希望でした。さらに、増えすぎた商品群も整理したかった。アイテム数が多すぎてお客さんが非常に買いづらいものになっていたんです。ラインナップを見直し、デザイン面から整理していこうと考えていました。2つめは組織改革、3つめはビジネスモデルの変換です。社員が老舗企業だから大丈夫という安心感を持ってしまっていないか、ビジネスモデルが百貨店に任せきりではないのか。ここは今も引き続き課題で、次世代の市場を創造する力を社内に育てなければと思っています」 …

あと57%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

「食」の老舗企業の挑戦 ブランド開発とクリエイティブ の記事一覧

練り物メーカーの新境地拓いた「宮殿風」店舗
「菊正宗」の名をあえて冠さない130年ぶり新ブランド
事業再生のプロが語るマーケティングとデザインの理想の関係
菓子問屋の老舗から生まれた異色のおやつブランド
最高品質の「だし」の裾野を広げる新たなショップ
会社の歴史の中から発信すべきコンセプトを発見する
老舗のポテンシャルを最大限に引き出すデザインリニューアル(この記事です)
ブレーンTopへ戻る