身体が反応するまま撮り続けた3週間
写真家上田義彦さんの最新写真集『68TH STREET』が上梓された。タイトル通り、この写真集に納められた写真は、ニューヨークの68丁目にある上田さんのアパートで撮影されたもの。そのページをめくると現れるのは、紙と光、そこから生まれる影のみだ。
「この写真を撮り始めたのは、68丁目の部屋の床に落ちる光を毎日眺めていたのが理由だった」と上田さん。「来る日も来る日も、この部屋に落ちてくる、ニューヨーク独特のビルとビルの間から落ちてくる光を見ているうちに、この光を撮りたいと思った。写真にとっての母である光そのものを写真に撮りたいと思ったのです」。昨年秋、この部屋で光を確かめるべく、紙を使って撮影を開始したところ、想像以上に不思議な光が落ちてくる場所であることがわかったという。
「68丁目の通りに面したこの部屋は隣の教会との間に庭があり、窓がたくさんあることもあって、2階だけれど光がふんだんに落ちてくる。そこに紙を広げて、光の移り変わりをじーっと見ていたんです。そのときに、これはカラーではなく、モノクロで撮ったほうがいいと思いました」。
時には床に、時には机に、時にはベッドの上というように、あらゆるところに紙が広げられ、そこに落ちてくる光を上田さんは追い続けた。「10秒も経てば、光は全く違うものへと変わる。だから冷静に考えるのではなく、身体が反応するまま撮り続けました」。
朝起きたら撮影を開始。日が落ちたら撮影をやめてフィルムを現像し、夕飯を食べながら乾燥するのを待つ。フィルムが乾燥したら、朝までにプリントをする──そんな生活を助手と共に3週間続けた。「東京のスタジオにある機材なんて、そこにはないから、全部自分たちの手で作業し、自然乾燥したら、フィルムをカットして…という。ある意味、写真の原点に返ったような作業でした」。
当初は写真集をつくることは考えていなかったが、プリントを重ねる内に「これは写真集にしなくてはいけない …