電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。ブックジャケットをつけられるのも本ならではの楽しさ。このコーナーではさまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛けあわせることで、触って感じる新しいブックジャケットを提案していく。
紙の持つ"物語性"に注目して生まれたブックジャケット
60年あまりの歴史を持つ竹尾のファインペーパー「マーメイド」は、紙の表面に独特の柔らかな質感を持つ。この風合いが穏やかな海のさざ波をイメージさせることから、マーメイドと命名されたという。今回のブックジャケットのデザインを手がけた資生堂のアートディレクター 花原正基さんは、そこにインスピレーションを得たと話す。
「マーメイドの起こしたさざ波(Mermaid Ripple)が連れてきた貝が、波打ち際にたどり着いた。そんなストーリーをイメージしてデザインしました」。紙の色は3種類あり、人魚の住むブルーグリーンの海、夏の太陽と砂浜をそれぞれイメージしている。
貝の画像は写真をイラストのような見た目に近づけている。「童話のイメージから来ているので、写真そのままだと生っぽすぎる。加工を重ねて、色や線の情報を減らしています」。その上で貝の部分にエンボス加工をし、物質感を強調した。貝の下の影は漫画用のスクリーントーンで入れ、夏の強い日差しによってできた影を表現した。
その近くには、波を表す線が3本。そのうちの1本は、「Mermaid」と読めるようになっている。箔を使い、小さな面積ながら存在感を出した。箔の色は紙によって変えている。例えば海をイメージした青緑の紙にはレインボーの箔を合わせた。「レインボーの箔って面白いと思ったんです。貝殻のパール感も連想できるので使ってみたくて。最初に説明を受けた時、レインボーの箔はベタ面で使うと箔のパターンが見えてしまうと聞いたので、波を表す細い線で使うことにしました」。
この本が発売される頃は、ちょうどゴールデンウィークの真っ最中だ。「旅や夏のモチーフを持ったブックジャケットなので、ぜひ夏の旅のお供に持っていってもらえたら」と花原さんは話してくれた。
今月使った紙:マーメイド
さざ波のようなフェルトマークが特徴のファインペーパー。製紙工程で用いる特殊なフェルト(毛布)の織り模様が紙の表面に転写されることで生まれる穏やかな風合いが魅力です。