世の中でヒットしている商品は、どのような道をたどって生まれ、その後定着して、「スタンダード」になっていくのか。さまざまな商品の原点から現在までを人気ユニット「いきものがかり」の水野良樹さんが、自らの曲作りと重ね合わせてインタビューします。

(左)カンロ 開発本部商品企画部 主任 塚原琴美
(中)カンロ コーポレートコミュニケーション本部 ヒトツブ事業室主任 増山恵世
(右)いきものがかりリーダー。ギター・作詞・作曲担当 水野良樹
Photo:Kenichi Shimura/parade/amanagroup for BRAIN
理想だけでは、商品は生まれない
水野:増山さんと塚原さんは、お二人ともグミの企画開発担当なんですね。なぜカンロに入社しようと思ったんですか?
増山:私は、もともとお菓子が大好きで、「ピュレグミ」も入社前からよく食べていました。いつかは好きな「ピュレグミ」を開発できたらと思って入社したのですが、まさか本当に携われるとは、でした。
水野:夢が叶ったんですね。実際に開発側に回ってみると、消費者として食べていたときとどんな違いがありましたか。
増山:はい、既存の商品に新しいことをプラスするのって、こんなに大変なんだということがよくわかりました(笑)。「ピュレグミ」のセンターに果実ジュレが入っている「ジュレピュレ」という商品があるのですが、消費者のときは「中に、ジュレが入っているんだ」位の感覚で食べていました。でも製造側からすると、真ん中にジュレを入れることはとてもハードルが高い。製造面の条件をほんの少し変えることが、こんなにも大変だとは思いもしませんでした。
塚原:私は以前広告会社で働いていたのですが、広告以前のものづくりに一から携わりたいと思い、入社しました。私もお菓子が大好きで、特に「ピュレグミ」のレモンは、学生時代に常備していたほどです。水野さんは、普段グミを召し上がりますか?
水野:食べます!スタジオに置かれているお菓子の中には、必ずグミが入っています。
塚原:よかった!今日は商品を並べているので、ぜひ試食してみてください。最近人気があるのは、直営店の「ヒトツブ カンロ」で販売している「ピュレショコラティエ」という商品です。ピュレグミに半分だけチョコレートをかけています。
増山:チョコレートを全体にかけるのは簡単なのですが、実は半分だけかけるのが難しいんです。「ピュレグミ」のよさも残したいと、試行錯誤してチョコレートを半分かけるところにたどり着きました。
水野:すごいグレープフルーツ感…
増山:ピュレグミの味によって、ビターチョコレート・ホワイトチョコレートを使い分け、フルーツの味に合うようにしています。こちらの「グミッツェル」という商品は、パリパリした独特の食感が人気で…
水野:あ、本当だ。おいしいです。
増山:パリパリとした独特の食感を出すために、いろいろな形を検討した結果、プレッツェル型に行きついたんです。
水野:この「ヒトツブ カンロ」ではどのような商品を扱っているのですか。
増山:「ヒトツブ カンロ」はキャンディの新たな魅力を広め、価値を高めていくことを使命としています。現在、直営店は東京GRANSTA店と大阪ルクア1100店だけですが、一般流通商品より製造にひと手間加えている商品ばかりです。工場の大量生産ではまだつくれない新しいアイデアの商品に挑戦する場という位置づけです。
塚原:「ヒトツブ カンロ」の商品が一般流通商品と大きく違うのは、自社店舗で販売していること。お客さまと対面し、直接声を聞くことができるのは大きなメリットと感じています。
水野:レギュラー商品の「ピュレグミ」の開発では、どんなことを意識していますか。
塚原:「ピュレグミ」の方は、主にコンビニ、スーパー、ドラッグストア向けの商品として開発しています。「ヒトツブ カンロ」とは一度に生産する量も全く違うので、味はもちろんですが、店頭でのパッケージの並び、そして効率面を考慮しながら企画しています。
水野:グミって、全般的に女性に好きな人が多い印象があるのですが。
塚原:「ピュレグミ」の購買層は、女性と男性でだいたい6:4の割合です。男性をゼロで考えているわけではありませんが、やはりメインターゲットは女性です。とはいえ、現在、伸び続けるグミ市場において、男性ユーザーも引き続き増加しているため、男性にも手に取っていただきやすいパッケージや味を意識してつくっていますね。
水野:グミはツブツブが入っていたり、シュワーッと清涼感があったりと、各社味や食感を工夫してユニークなものをつくっています。それゆえに、差別化が難しいのではないかと思うのですが…。できあがるまでのプロセスには、当然のことながら"制約の壁"がありますよね?
増山:もちろんたくさんあります。
塚原:例えば、耐久、輸送の問題。「ジュレピュレ」は、グミのセンターにジュレが入っています。企画する側としてはとろっとするジュレをたっぷり味わってもらいたいのですが、そこには耐久面での壁があります。また「ピュレグミ」は果肉食感が特徴ですが、水分量が多いと耐久が持たず品質的な問題が発生します。理想と現実を常に拮抗させながら、開発を進めています。
増山:一般流通商品の場合、コストが高い原料を使うことが難しいので、それもひとつの壁になります。その点、「ヒトツブ カンロ」では、その壁をクリアしやすい。こだわりのお酒を配合した「マチュアグミ」という商品では、一般流通商品ではコスト的に使えない原料を使って、新しい価値を提供できています。「ヒトツブ カンロ」は、自分たちが自信をもって商品を提供できるブランドになりつつあります …