静岡県浜松市を拠点とし、銘菓「うなぎパイ」で知られる春華堂。2014年にスイーツショップやプレイグラウンドを備えた「nicoe」を竣工。2つの新しいお菓子ブランドも立ち上げた。社内のクリエイティブチームと職人、パティシエ、さらに社外のクリエイターと協同し、新しい流れをつくっている。
お菓子はコミュニケーションツール
静岡土産の定番とも言える春華堂の「うなぎパイ」。1961年の販売開始から57年目を迎えた今も、浜松のシンボルのひとつとなっている。「お菓子って、封を開ける瞬間から楽しいもの。だからこそ、僕らは遊び心を大切にした商品をつくっていきたいんです」と話す。
「うなぎパイ」は地域ブランドとして、全国的にも高い認知度を誇る。それがゆえに、浜松に根差したという想いも強く、これまで新しい可能性を見出だすことが難しかった。それを打破すべく、2014年には2つの新ブランドを立ち上げた。五穀と発酵の出会いをテーマに日本の伝統文化を提言する「五穀屋」、培ったノウハウを生かし、パイ文化の新しいスタイルを提案するパイの専門店「coneri(コネリ)」である。
また、これらのブランドを展開する大型施設「nicoe(ニコエ)」も同年に立ち上げ、「浜北スイーツ・コミュニティ」というコンセプトのもと、お菓子の新しい文化とスタイルを発信している。
この一連の取り組みは「トータル・クリエイターズ・プロジェクト」と名付けられ、食やデザインの分野で日本を牽引するクリエイターたちが参加。スペースプロデュースやアートディレクション、パッケージデザイン、Webデザイン、写真、音楽などの領域において国内外で活躍するクリエイターを巻き込んだ大型プロジェクトとなった。
春華堂企画部に在籍するインハウスデザイナーは、社外クリエイターと連携してプロジェクトを進める「ハブ役」として、新生・春華堂のブランディングを牽引している。若手デザイナーであっても経験豊富な社外クリエイターの美意識や仕事に向き合い、仕事を進めることも多い。
デザインを「作業」と捉えず、ツール制作の根本的な目的を見つめ、企業文化の担い手としてプロジェクトを率いる──。このデザインプロセスとそれを実現する環境が根付いているからこそ、春華堂ではダイナミックなクリエイティブを生み出すことができるのだ。
企業文化をつくるデザイナー
若手デザイナーは、「どの仕事もときに深く、ときに広くプロジェクトに関わることができます」と話す。五穀屋の五穀せんべい「山むすび」という商品のパッケージでは、一緒にデザインを進めていた社外のアートディレクターからアドバイスを受け、昔の人が使った民具に関する文献を読み深め、デザインに生かした。
coneriでは、暮らしの中にパイがとけこんでいるシーンを顧客にイメージしてもらいたいと考え、二子玉川や浜名湖でロケを実施。フォトグラファーと打ち合わせながら準備を進め、ナチュラルな世界観を感じられる画づくりをディレクションした。同社企画部の仕事では、こうしたディレクションから印刷まで関わることができるため、デザイナーとして幅広い経験を積むことができる。
2015年、春華堂にひとつのチャンスが訪れた。ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)に和菓子ブランドとして「五穀屋」にオファーがあったのだ。
長い間、地元・浜松で人と人との縁を大切にしてきた同社では、「世界の舞台でも同じように、お菓子を介したコミュニケーションを大切にしていきたい」と考え、新たな試みに取り組んだ。甘納豆の製造販売から始まった春華堂だが、原点にある和菓子を介して、いまその可能性は広がっている。ミラノでの出展以降も2017年にニューヨークで開催された国連総会に関連した日本政府主催の「食・観光レセプション」など、世界の政財界リーダーや政府関係者が集う場で「五穀屋」の和菓子は提供されている。
一方、春華堂では全社的な取り組みとして、浜松の魅力発信を目的に「水窪プロジェクト」を開始した。これはかつて雑穀栽培が盛んであった浜松市の北部・水窪地区で「ネコアシアワ」をつくるプロジェクト。収穫したネコアシアワを原料とした菓子づくりへとつなげ、6次産業化するというビジョンを掲げている。
同社のクリエイティブチームは、和菓子職人やパティシエと連携しながら、「お菓子は自分だけが楽しむものではなく、人にあげるなど、多くの人と楽しむコミュニケーションツール」であるという認識を持って制作に臨んでいる。「変えるべきこと、変えるべきではないことの両方を見極めながら、自分たちならではのクリエイティビティをきわめていきたい」と、同社企画では考えている。
お問い合わせ先
春華堂では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは『ブレーン』2018年4月号のCAREER NAVI(P99)をご覧ください。
春華堂
TEL:053‐585‐5678