2014年にボストン コンサルティング グループ(以下 BCG)が設立した新組織には、起業経験者やデザイナー、エンジニアが籍を置く。クライアントのデジタル領域における新規事業立案からサービスローンチ、スケールアップまで一貫して提供していることが最大の特徴だ。
大企業のアセット×スタートアップの機動力
ここ1、2年、コンサルティング会社がクリエイティブ会社の買収や、専門部署の設立によってクリエイティブの職種を社内に置く動きが目立っている。その中で、BCGが設立したBCG Digital Ventures(以下BCGDV)は、新規事業創造に特化した一風変わった部隊である。米ロサンゼルスに本部があり、日本オフィスの設立は2年前。デザイナーに加え、起業家やエンジニアが所属し、大企業と共に新規事業のアイデアを出し、事業の立ち上げから拡大までを一貫して担う、新しい組織体である。
同社には大きく分けて、6つの職種が存在する。世の中のニーズを拾いあげビジネスのアイデアを発想する「ストラテジックデザイナー」、ビジネスを考える「ベンチャーアーキテクト」、技術開発を担う「エンジニア」、グラフィックやUIを開発する「エクスペリエンスデザイナー」、プロダクトづくりの責任を担う「プロダクトマネージャー」、スケールアップを行う「グロースアーキテクト」が1つのチームになって動いている。元経営コンサルやIoTデバイスのエンジニアなど多様なバックグラウンドを持つメンバーが揃う。
プロダクトデザイナーからキャリアをスタートし、デザインファームIDEOなどを経て、同社に参加したHead of Design の石川俊祐さんは、「BCGDVが他と違うのは、グローバルのネットワークによる情報の流動性が高いことです。目の前にいる人だけがチームではなく、各拠点のメンバーと情報や知見を交換することがスピード感を生んでいます。グローバルとの連携は日本市場の今後の動きを先んじて把握することにもつながり、高い視座からの動き出しを可能にしています。もうひとつ、これは個人的なテーマでもありますが、人がほしいと感じるデザインをきちんとビジネスとして成立させていくことに興味があり、当社ではデザインとビジネスの融合を実現できるのではないかと感じています」と同社の体制の強みについて話す。プロジェクトは早いものだと、2~3カ月で形になっていく。
同社 Lead Experience Designerの花城泰夢さんは「以前は広告制作やアプリ開発を行う会社にいましたが、役職や国の枠を超えてサービスを展開したいと思っていました。ここではスタートアップマインドを持ちながら、大手クライアントのアセットを生かしたスケールの大きなチャレンジができる。その環境が他にない魅力です。クライアントワークという感覚ではなく、全員が"自分の事業"というオーナーシップ感覚を持って仕事に臨んでいます」と言う。
専門性のぶつかり合いが新しい事業を生む
立ち上げから2年、BCGとつながりのある大手クライアントを中心に新規事業が形になり出している。例えば、ベビー用品などを幅広く展開するユニ・チャームの案件では、中国の子育て世代をターゲットに市場をリサーチ、育児方法とメディア消費の両方に大きな変化が訪れていることに着目。ママ向けの動画メディアを生み出し、最終的には両社の出資によるベンチャー企業を立ち上げるに至った。この企業には、BCGDVのメンバーがCEOとCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)に就任した。
デザイナーも自らビジネスを興し、キャリアを作っていくことができる。こうしたキャリアアップモデルも同社ならではのものだ。
一方で、今後の市場やテクノロジーの動きを予測して、ニーズのあるサービスやテクノロジーを先に開発し企業に提案する(フューチャービジョニング)こともあるという。「色々なビジネスモデルがありますが、共通して重視しているのは正しく『問い』の設定をすることです」と石川さんは言う。
「例えば新規事業を考える時に、『未来のモビリティがどうなるのか?』と漠然と考えるよりも、『未来のモビリティの中で人は何をするのか?』と考えた方が具体的なアイデアにつながります。何が世の中で必要になっていて、クライアントの主軸とする事業がどう関わっていくかを考え、新規事業を検討しています。それを早い段階からクライアントの経営に近い方と話し合いながら形にしていけることが強みです」。
BCGDVでの仕事は「毎日がハッカソンのような感じです」と花城さんは言う。多彩な専門性を持ったメンバーが、意見をぶつけ合いながら1つの事業やサービスを形にしていく。自ら仕掛けていくマインドを持つ人には、成長のチャンスと活躍の場が広がっている。
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