電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。このコーナーではさまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛けあわせることで、触って感じる新しいブックジャケットを提案していく。
「装幀という行為」を顕在化させる
今回のブックジャケットをデザインした水戸部功さんは、タイトルを印象的に配したミニマムな装幀で知られるブックデザイナーだ。このブックジャケットは、一見水戸部さんの装幀した本のようだが、文字を読むと、「この紙の束を隠し保護する紙という文字が書かれた紙」とカバーの有り様がただ記述されている。
「これは『同義反復』(トートロジー。等しい意味を反復すること)なんです」と水戸部さんは語る。普段から考えているのは、紙に言葉を記し、紙を本という物質に変えていく行為そのものが装幀だということ。今回は、"1枚の紙"を"本のカバー"にするという装幀の行為の一部を、カバーにそれ自体の意味を記すことで顕在化させようとした。
裏面には、「生まれてこの方読んだこともないくらいとても難しい本を読んでいるところです」と、"本を読む人"を説明する言葉が書かれており、このカバーを掛けた本を読む読み手自身を同義反復にする。そして第三者の視点からこの読み手を認識したとき、「『同義反復的なカバー』を使用した本を同義反復的な読み手が読んでいる」二重構造になっていることに気づく。「このブックジャケットが、記すこと、そして読むことなど、無意識にしている行為に気づくきっかけになれば」と考えたという。
紙はジャガードGAを選んだ。表面のエンボスとフラットな裏面の差がはっきりしているため、表裏でデザインのコンセプトが異なることを強調するのに適していると考えた。また織柄のエンボスは幾何学的で記号性が高く、このデザインと相性がいい。表面の文字は、マット黒箔と透明箔の2種類で、いずれも箔により文字部分のエンボス模様が際立ち、浮き出て見える。事前には予測していなかったが、「あらゆる意味を削ぎ落とし、文字だけで言葉の意味を浮き上がらせたい」と考える水戸部さんにとって、面白い効果になった。
今月使った紙:ジャガードGA
洗練されたジオメトリックな織柄エンボスをほどこしたファインペーパー。多様なエンボスとカラーの組み合わせからなるT-EOS(ティオス|竹尾エンボスオーダーシステム)シリーズのひとつです。