クリーブランド美術館のデジタルウォール「Gallery One」、クーパーヒューイット・スミソニアン・デザインミュージアムの「Immersion Room」(共にブレーン2016年8月号に掲載)、ワールド・トレード・センター跡地(グラウンドゼロ)にできた記念館「National September 11 Memorial & Museum」とワン・ワールド・トレード・センターの「CITY PULSE」、グランド・セントラル駅の「An American Oral History Archive」…。どれも大きな話題を呼んだ施設やスペースである。
何の関係もないように思われる、これらの美術館やパブリックスペースのデジタル・イベントには、実は一本の太い線が貫かれていることを知っている人は少ない。ニューヨークSOHOにオフィスを持つLocal Projectsだ。
新しい体験を作り出す
「Local Projects」(以降、LP)という、ごくジェネリック(総称的)な名前を聞いて、多くの人は地方の小さい仕事をする会社を想像するだろう。だが、LPはその名に反して、米国内は言うに及ばず、ヨーロッパ、アジアなどで、大きな話題を集める画期的な仕事をしている。小さいけれど、ダイヤモンドのように光る会社。そして、そのダイヤモンドの真ん中の、最も大きい宝石がジェーク・バートンというデジタル・アーティストである。
誰もが知っている名前ではないが、ミュージアムやパブリックスペース関係者の中には、この名前を聞いて畏敬の念を持つ人は多い。今年45才、LPの創始者兼CEOのジェーク・バートンは、LPについて、次のように説明する。
「LPはメディア&アーキテクチュア・デザイン会社です。ミュージアム、パブリックスペース、文化財団や企業などのために、恒久的な展示を設計、施工し、新しい体験を楽しんでもらうことを使命としています。これまでに一度も見たこともない、体験したこともない場を作り出す、それが僕らの仕事です」という。
この"体験"を作り出すための最も重要な要素は、観客と"もの"、またはスペースとのインターアクションであり、観客の参加によって生まれるクリエイティビティだと、バートンは言う。例えば、クリーブランド美術館の「Gallery One」と呼ばれるデジタルウォールは、観客がタッチすることで画像が拡大したり、その作品に関する情報が提供される。
また、同美術館の「Studio Play」では、観客の動作や表情を感知して、それに似た美術品をスクリーンに登場させたり、巨大なスクリーンの前の観客の動きによって、スクリーンの上にあるものが変わる。クーパーヒューイット・スミソニアン・デザインミュージアムでは、来館者の描いたデザインがそのまま四方の壁に壁紙として投影される「Immersion Room」がある。個人のクリエイティビティとスペースとのインターアクションをそのまま実現したものだ。
911メモリアル&ミュージアム
ジェーク・バートンにとって、LPの存在を世界的に知らしめることになった仕事、そして同社が最も誇る仕事は、8年間の歳月をかけて2014年5月21日にオープンしたNational September 11 Memorial & Museumだ …