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広告をアップデートするテクノロジー

AIでクリエイティブ開発 広告会社の取り組み最前線

AIは広告会社をどう進化させるのか?「AIコピーライター」や「AIクリエイティブディレクター」が登場し、AI×クリエイティブ開発の取り組みが進められている。国外に目を向ければ、JWTやピュブリシスといった巨大なネットワークがAIを使った「働き方改革」に取り組んでいる。その最前線をレポートする。

JWT社内用AIプラットフォーム「Pangaea」。全世界の社員1万2000人が利用できるQ&Aプラットフォーム。

誰よりもJWTらしい"社員"のような存在に
JWT「Pangaea」

グローバルのナレッジを集約したAIプラットフォーム

2017年10月、ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT)は、エージェンシーで世界初の取り組みとして、社内用AIプラットフォーム「Pangaea(パンゲア)」を発表した。デジタルエージェンシーのMirum、JWT Worldwide、ソフトウェア開発会社Starmindの3社によって共同開発されたPangaeaは、JWT社員1万2000人が利用できるQ&Aプラットフォーム。社員誰もが匿名で質問を投げかけられ、質問は全社員に共有され、誰でも回答したり、回答できる社員を紹介できるようになっている。

使用頻度が高くなることで、学習能力も上がり、回答に最適な人材を特定することもできるようになっていく。Pangaeaの名前の由来は、はるか昔、大陸移動して分かれる前に存在していた「超大陸(Pangaea)」。そこには、世界を再び1つにする、つまり国境や時差、言語の壁を取り払い、グローバルで1つのコミュニティにしていくという意思が込められている。

細かくその機能を見ていこう。Pangaeaは人工学習機能によって寄せられた回答に条件づけを行い、プロフィール、職務、ネットワーク内でのやり取りに基づいて、質問への対応に相応しい人を決定する。また、システムには翻訳機能が備わっており、例えばサンパウロのプランナーがポルトガル語で質問や問題を投稿し、東京の戦略プランナーが日本語で回答できる。その後、回答をポルトガル語、英語、日本語で公開し、そのインサイトを世界で共有できるという。

「Pangaeaに人材、チーム、リソースを集約し、ネットワーク内でより広範に効率的にコラボレーションすることで、クライアントのためによりよい仕事をする。それがPangaeaを開発した目的です。PangaeaはJWTの文化やDNAを体現する存在であり、過去の優れた事例をアーカイブする場所にもなります。社員は誰でもアーカイブの情報にアクセスし、進行中のプロジェクトにヒントを得ることができます」とPangaea開発を担当したJWT NYのCTOジェミー・マクレランさんは言う。

実際に、ブラジルオフィスではPangaeaを使って生まれた提案で、新たに放送局Skyのアカウントを獲得するなど、同社のビジネスにも貢献している。

現在は社内利用のみだが、今後はボットサービスとしてビジネスアプリに埋め込んだり、クライアント向けサービスとして提供する計画もある。Pangaeaはどこのオフィス・国にも所属しないが、ある意味誰よりもJWTらしさを持った"社員"のような存在になっていくのかもしれない。

JWT NY CTO ジェミー・マクレランさん

間もなくローンチ ピュブリシスの新AIプラットフォームとは?
ピュブリシスグループ「Marcel」

同社変革のマイルストーンなるか

ピュブリシスグループがAIプラットフォーム開発のためにカンヌライオンズへの参加を見送ると昨年発表したことは、広告界を揺るがせたニュースとして、まだ記憶に新しい。「The Power of One」のグループ新戦略のもと、デジタルテクノロジー企業Sapientを買収し進めてきたAIプラットフォーム「Marcel(マーセル)」が、間もなく姿を現す。公式リリースによれば、お披露目は今年6月にパリで開催される世界的なスタートアップの祭典「Viva Technology」で行われるという。

Marcelは、同社の全世界8万人の社員をつなぎ、新しいビジネス機会やクライアントのニーズ予測、メンバーのマッチング、グループ内のデータを活用したビジネスのソリューションを推進するものになる。これらの機能は2017年に同社が実施した社員調査の結果にもとづいており、同グループのメンバーが望む将来の働き方が反映されている。

Marcelは同社の社員に、デザイナーとデータサイエンティスト、ロボティクスと流通のスペシャリスト、コンサルタントとクリエイターなど、あらゆる協業の機会を生み出すとしている。「Marcelはグループにとってのマイルストーンになる。広告は、テクノロジーによる恩恵を享受していない最後の産業の1つです。今がそれを変える時なのです」と同グループ会長兼CEOのアーサー・サドゥンさんはコメントしている。

なお、Marcelの名前はピュブリシス創業者のマーセル(Marcel)・ブレウスタイン・ブランシェさんの名前から取られたもの。ここからも、同社がこのAIプラットフォームを自社の中核エンジンとして捉えていることがわかるだろう。マーセルさんは、「起業家とは、アイデアとその実行の間を最短の時間でやりとげる人物だ」という言葉を残している。Marcelによる業務効率化の取り組みは、同グループにどれだけのインパクトをもたらすのだろうか。

AIの"無茶ぶり"が人間のクリエイティビティを拡張する!?
マッキャン・ワールド・グループ「AI-CD β」

「AI-CD β」とそのディレクションの例。

CMクリエイターの暗黙知を構造化する試み

「AI-CD β」は、マッキャンエリクソンのミレニアル世代チーム「McCANN MILLENNIALS」が開発した、CM制作のためのAIクリエイティブディレクターだ。2015年のSXSWで行われたNetflixのキーノートに刺激を受け、「エンタメ分野でAIによるディレクションができるなら、広告でもできるのではないか」と着想したのがはじまりだった。

AI-CD βに入力されているのは、「ACC CM フェスティバル」テレビCM部門の過去10年分の受賞作品をはじめとするCMのクリエイティブデータだ。それぞれのCMを24の要素(トンマナ、モチーフ、手法など)に分解。プロジェクトメンバーがそれらを入力し、独自のルールでタグ付けした。利用する時は、ブリーフの入力画面に必要情報を入力すれば、アルゴリズムによって5行の"クリエイティブディレクション"が出力される。

「なかなかの無茶ぶりが出てくるのですが、自分たちでは考えつかないものなので面白い。AI-CD βをクリエイティブディレクターにすることによって、半ば強引にクリエイティビティが拡張されるところがあります」とMcCANN MILLENNIALSの折茂彰弘さんは言う。AI-CD βは2016年4月にデビューしたが、その後も「逆張りモード」(最適解である1案目と逆方向にあるB案を提示するモード)が搭載されるなどの進化が加わっている。

見た目のキャッチーさもあり、デビュー時にはさまざまなメディアで報道された。マスコミ、エンタメ業界からの引き合いが多く、現在、フジテレビ系列で放映中の『AI-TV』に出演し、若手芸人たちにお題を提供しているほか、ポニーキャニオンのプロデューサーの目に留まり、アイドルグループ「マジカル・パンチライン」のMV制作にも携わった。デビュー2年をまもなく迎え、さらに機能を拡張しながら活躍の場を広げたいと考えている …

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