サントリーが2017年10月に2本の「ミュージックビデオ(MV)レーベル」を立ち上げた。若手アーティストを「ヨーグリーナ&サントリー天然水」「クラフトボス」などのブランドが全面サポートし、ブランド協賛型のMVを制作していく新しい試みだという。
人材、アイデアなど包括的にMV制作をサポート
──MVレーベルとは、どのような企画なのでしょうか?
中村:サントリーがこれからの時代を牽引する若きアーティストに対して、MV制作を全面サポートする企画です。必要な人材、アイデアなどさまざまな部分でアーティストを後押ししていきます。10月には2本のMVを公開しました。ヨーグリーナ&サントリー天然水(以下ヨーグリーナ)がロックバンド「ポルカドットスティングレイ(以下ポルカ)」の新曲「レム」を、クラフトボスがバンド「sumika」の「Answer」をそれぞれサポートしたMVです。
──企画の狙いや背景を教えてください。
中村:いま、テレビCMだけではブランドメッセージが若者に届きにくいと感じています。一方、デジタルメディアで広告をリーチしても、無視されてしまうこともあります。こうした若者に対し、質の高いエンゲージメントをどう確立するかが、我々の課題でした。前のめりに興味を持ってもらえる方法を模索する中で、可能性を感じたのが「MV」だったんです。CMは15秒でも最後まで見られないケースがありますが、MVは時間をかけてじっくり視聴される特長があります。エンゲージメントの高さが魅力でした。
──サポートするアーティストは、どのように決められているのですか。
中村:強い熱量を持つファンのいる若手アーティストで、まさにこれから人気が盛り上がってくるであろうネクストブレイクアーティストにお声がけしています。そのような方々と組ませていただくことで、テレビや広告だけでは十分アプローチができない若い方々に振り向いていただくことが狙いです。そして、サポートの条件としては、サントリー商品のブランドメッセージと、アーティストが作る楽曲にシンクロする部分があることです。
例えば、クラフトボスなら、「新しいワークスタイルやライフスタイル」に共鳴する部分がある、ヨーグリーナならばブランドが持つ「朝を気持ちよくスタートさせる」というイメージにマッチするなどです。
栗林:制作の立場からもう1つ加えるなら、アーティスト自身が前のめりで、新しいチャレンジに乗っかってくれることが、この企画では大事でした。今回の2組も、前向きに楽しみながら参加してくれました。
タイアップとの違いはアーティストを主語に制作すること
──いわゆる"タイアップ曲"でのアーティストと企業のコラボレーションは以前からありますが、何が違うのでしょうか?
中村:主体を企業ではなく、アーティストに置いていることです。企業がアーティストに要望を出して曲を作るのではなく、あくまでアーティスト自身が作りたいと思って作った楽曲が主役なんです。その楽曲に対して、ブランドとシンクロする部分を見てサポートする範囲を決めて提供します。ブランド側から寄り添っていくということです。
栗林:だからYouTubeで映像をアップする先も、企業のチャンネルではなく、アーティストチャンネルにしています。映像版権もすべてアーティストのものです。映像の中に商品を出し続けてほしい、といった要望もしません。それぞれのアーティストと出し方は話し合って決めています。
──具体的に、公開中の2つのMVはどのように企画を考えたんですか?
栗林:sumikaの「Answer」には、「国境を超える」というテーマがありました。一方でクラフトボスには「新しいワークスタイルやライフスタイル」というテーマがあります。「枠を超える」という部分で両者がシンクロすると感じ、かつてないやり方で「枠を超える」MVにしようと考えました。具体的には、あるトリックで「画面という枠」を超えるMVなのですが、ギミックではなく、sumikaの魅力であるハッピー感をさらに楽しく見せる要素になるよう心がけました。
ポルカの方は、アーティスト側が既に作りたいMVの企画を持っていたので、僕らの主観や意見はなるべく入れず、その実現に力を注ぎました。実は僕らも依頼するまで知らなかったのですが、今回MVのシナリオを手がけたポルカメンバーの雫さんは、元々ヨーグリーナの大ファンだったんです。MVの中ではさまざまな形でヨーグリーナが出てきますが、全部ポルカのアイデアなんです。
MVを企業がバックアップする新しい文化を作りたい
──公開後の反響はいかがでしょうか?
中村:ファンの方を中心に、驚くほど反応はいいです。実際に商品を買っていただいたり、SNS に投稿していただいたり、ポジティブな反応をしてくださっています。
──YouTubeのコメント欄からも、ファンの熱量を感じます。サントリーがスポンサーについたと喜ぶ声もありましたね。
栗林:ポルカのMVと違って、sumikaのMVでは、クラフトボスは最後にしか登場しないんです。それでも見つけてくれて、「よくやった、クラフトボス!」というようなお声もいただきました。
中村:皆さん本当に細かいところまでよく見ていますよね。ファンの方々にありがとう、と言われるのはすごく嬉しいです。
──MVとこれまでの企業動画では、どんな見られ方の違いを感じましたか?
中村:伸び方の形が違います。企業動画は初速で勢いよく上がっていきますが、MVは徐々にビューが上がっていき、そのまま落ちにくいように感じています。MVのようなファンに愛されるものならではの、継続的な接点の作り方だと感じました。
──今後の展開をお聞かせください。
中村:天然水では「7A.M.Films」、クラフトボスでは「Good Job Films」というレーベル名をそれぞれ作っていますので、それをつなぎ目にして、これからもポルカ、sumikaに続くネクストブレイクアーティストたちと出会っていきたいです。もちろん他ブランドでも、オリジナルMVレーベルの展開を検討したいと思っています。幅広いアーティストの方々に、この取り組みを知っていただき、ファン層を広げるきっかけに活用してもらえたらと思います。
栗林:個人的には、この枠組みを色々な企業が真似して広がっていけばいいなという夢を持っています。以前ヒップホップアイドルグループの「リリカルスクール」の縦型MVを制作した時に知ったのですが、いいMVを作りたいと思っているアーティストはたくさんいるし、それを待ち望んでいる熱いファンもいる。
ただ、MVの世界は本当に予算が限られていて、表現したいことが実現できずに苦労しているアーティストがたくさんいるんです。この取り組みをきっかけに、MVを企業がバックアップするという文化が普及すれば、いいMVがどんどん生まれるし、音楽文化の構造さえも変わるかもしれない。その先頭にサントリーさんがいるという見え方はすごくいいと思っています。
中村:それはアツいですね。普段広告を作る中で得た、栗林さんのようなクリエイターの方々とのつながりをもとに、当社ブランドを生かし、MVという素敵なコンテンツを盛り上げていきたいですね。
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