グッドデザイン大賞を受賞したのは、ヤマハが開発した新しい楽器「Venova」(ヴェノーヴァ)。指での操作はリコーダーに近いが、音色はサクソフォンに近い。開発の背景を担当者のひとり、B&O事業推進部 B&O商品企画グループ中島洋さんに聞いた。
アコースティック楽器をカジュアルな存在に
ヴェノーヴァは、ヤマハが2015年に始めたプロジェクトで生まれた新しい楽器です。多くの人は初めての管楽器経験として学校教育の中で、リコーダーに触れると思います。しかし、それを過ぎるとなかなか管楽器に触れる機会がなくなってしまう。そこに着目して、このプロジェクトは始まりました。
「もっと気軽に もっと自由に 音楽を遊ぼう」がコンセプトで、人々が日常生活の中で管楽器の音楽に触れる機会を創出することを目的とし、もっとカジュアルに楽しめるアコースティック管楽器があったらいいのではないかと考え始めました。
サクソフォンやクラリネットなどアコースティック管楽器を新たに始めたい方にとっては、楽器の価格や演奏の難易度に加え、乾湿の管理などメンテナンスが必要というハードルがあります。かたや、プラスチック製のリコーダーは本体を分解して拭くだけ、水洗いも可能というメンテナンスの容易さがあり、世界中で教育の現場に採用されています。そうしたメンテナンスのハードルを取り除き、1万円前後と手に取りやすい価格で本格的な音が出せる管楽器を作ろうと本プロジェクトの企画を進めていきました。
25年以上前に発見した理論に現在の技術で形を与えた
ヴェノーヴァ開発のポイントになったのは、「分岐管」構造です。これは1993年に発売されたシンセサイザー「VL1」に搭載された音源に用いられた「分岐管理論」がベースにあり、具現化された構造です。当時は、実際の楽器で起こる物理現象を電子的に再現する研究を行っていました。
その中で、サクソフォンなど吹き口から先にいくほど円錐状に広がる「テーパー管」を、分岐した円筒管で近似させることができるとわかりました。ただ、研究の目的が電子楽器の開発であったため、それ以上の進展はありませんでしたが、私自身は2009年頃にこの発見の話を聞いて、いつか使えるのではないかという考えが頭の中にありました。
サクソフォンは構造上、指で音が出る孔をふさぐことができず、たくさんのキイがついた複雑な構造になっています。ヴェノーヴァでは、それを分岐管構造と蛇行化によって、指で直接ふさげるようにし、リコーダーのようにシンプルかつコンパクトにしていきました。
実際に試作し試奏してみると、音程や吹奏時の抵抗感が計算通りにいかないことが多く、調整が必要になりました。そうした調整には本来すごく時間がかかりますが、これまでさまざまなアコースティック管楽器を開発する中で作られた音程設計用のソフトウェアと、3Dプリンターを活用することで、2年という短期間で製品化することができました。
そもそもの分岐管構造があって、そこに技術による効率化が加わった結果、ヴェノーヴァはでき上がっているんです。
100年後も人々に親しまれる楽器に
楽器としての性能や機能が整った段階で、デザインに関する検討が始まりました。その当初、社内では議論が巻き起こっていました。というのも、これまでアコースティック管楽器を作ってきた社員たちは、プラスチック製で、角のような分岐管がつき、蛇行しているデザインに違和感を覚えたのです。
アコースティック楽器はデザインが性能や機能を左右するため、当社のデザイナーと意見を交わしながら、なるべくかたちはそのままに、正面から見ると管楽器らしい見た目だが、横から見ると独創的なデザインにしています。それに加え、ケースやパッケージも親しみやすいように、あえてカジュアルな印象にしています。
結果として、独特な見た目と音のギャップが注目され、多くのメディアで取り上げられました。露出を通して、技術的なストーリーも一緒に広がり、これまで接点のなかったメディアや業界との新しいつながりができたことも成果のひとつです。今後はこのヴェノーヴァを世界的に展開し、100年後まで人々に親しまれる楽器にしていきたいと考えています。
- PR/中島洋
- Dir/川田学、勝又良宏
- D/辰巳恵三