ADC賞グランプリやグッドデザイン賞金賞などを受賞した、町工場×ミュージシャンの音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」。その実現の肝は「企画書ありきではないプレゼン」にあるという。
日本の町工場をクリエイティブの力で盛り上げる
INDUSTRIAL JPは、町工場がバネやネジなどを製造する工程から発生する機械音をミュージシャンがサンプリングして曲をつくり、それを製造工程の動画にミックスすることでミュージックビデオに仕上げて配信するプロジェクトだ。企画したのはデザイナーの下浜臨太郎さんと、電通でクリエイティブディレクターを務める傍らDJ MOODMANとしても活動している木村年秀さんら電通総研Bチーム出身のメンバーだ。一見すると本業の広告の仕事とは無関係に見えるが、どのようにしてこの企画はスタートしたのだろうか。
「元々は電通総研Bチームだった倉成英俊さんと由紀精密という工場の社長の大坪正人さんという方が日本の町工場をクリエイティブの力で盛り上げたいと話していたことがきっかけでした。その話が僕のところにも来たのですが、予算もない中で何ができるのか、いい案が思い浮かばず…。そこで、まずは現状をリサーチするために、町工場の商談会、展示会に何度も足を運んでみたんです」(下浜さん)。
そこで下浜さんが出会ったのが、小松ばね工業だった。同社の展示ブースにはバネを製造する工程を撮影したビデオが特に説明もなく淡々と流されていた。
「他社も映像を流しているのですが、テロップやナレーションで説明などが入っているいわゆる企業説明の映像でした。でも、小松ばね工業のビデオはそういうものは一切なしで、加工技術のコアな部分の動作だけストイックに映し続けていたんです。その映像が面白くて、これに音楽を乗せたらカッコいいに違いない…と興奮して、その場でスマホで映像を撮影させてもらったんです」。
持ち帰ってから試しに既存のトラックを乗せてみたところ、映像と音楽が見事にハマった。この手法で全国の工場の映像を使い、オリジナル音源で展開できるのではないかとひらめいたという。
そして、この企画を実現するためにはDJとして音楽活動をしている木村さんの力が必要と声をかけた。木村さんは「話を聞いて、音楽レーベルにするのがいいんじゃないかと提案しました。レーベルというプラットフォームにすることで、リスナーやメディアとの接点も増えるし、新しい収益の仕組みを作ることもできるはず。音楽レーベルも今、町工場同様に苦戦しているので、両方のリブランディングに繋がるプロジェクトにできればと考えました」(木村さん)。
デモビデオを見せながら仲間を集める
2人はこの企画を「町工場から生まれる音楽レーベル」とプロジェクト化して、実現のために工場側と音楽側に対してプレゼンを行うことにした。町工場へのプレゼンは下浜さんが担当した …