赤城乳業や大日本除虫菊のユニークな広告を連発している、電通関西支社の古川雅之さん。その企画プレゼンはどのように行われているのか、話を聞いた。

赤城乳業「値上げ」篇
「値上げ」CMは番外篇として提案した
ガリガリ君の「値上げ」CMは、元々「値上げを伝えてほしい」というオリエンからつくられたCMではないんです。オリエンは「ガリガリ君は発売から35年経ち(プレゼン当時)、発売当時に食べていた子どもが、今は大人になっている。そこで、これまでの『ガリガリ君』の登場するアニメCMではなく、実写版にした、大人向けCMを作ってほしい」という内容でした。
僕たちが実写版CMとして提案したのは、青空のブルーをガリガリ君の「ガリガリブルー」に見立てた案、食べるシズルをシンボリックに描いた案や、外で遊ぶ子どもたちのビジュアルを大人に置き換えた案など。「値上げ」篇はこのプレゼンのときに“番外編”として最後に提案したものだったんです。
企画は、毎回藁をもつかむ感じで考えています(笑)。実はこの「値上げ」篇も苦肉の策でした。というのも、国民的に愛されている商品である、昔からある定番メジャーなアイス、何億本も売れている…と色々な情報がありますが、何を言えば大人に刺さるのか、1つに絞るのは非常に難しかったんです。その中で、「10円値上げする」という事実があると聞いて、いいか悪いかは別として、ニュースであることには違いない。これをうまくチャーミングに出せれば、1つ言うべきことになると思ってひねり出した案です。
赤城乳業のプレゼンには、マーケティング部だけでなく、社長、会長も出席します。事前にマーケティング部長に「番外編として値上げのCMをプレゼンしていいですか」と打診したところ、「ユーモラスに値上げを伝えることは、他社では絶対にできないと思う。なので、ぜひ経営陣に提案してほしい」と言っていただきました。赤城乳業は「あそびましょ」が会社のスローガンで、異端の精神を大事にしています。だからこのCMはやる意味がある、と思っていただけたようです。
本番のプレゼンでは、この案は批判やデメリットも生むかもしれませんとした上で、「やるべきです」とは言いませんでした。ただ、「このCMを打っても十分にチャーミングに見えるだけの人気と、企業のキャラクター(人柄)があると思います」と伝えました。結果、「こんなCMはうちしかやらないだろうから、ぜひやりたい」と即決で採用されることになりました。
どシンプルなオリエンとプレゼンキンチョーの広告
僕は大日本除虫菊の「金鳥」や「タンスにゴンゴン」も担当していますが、赤城乳業と大日本除虫菊はそれぞれオリエンの仕方が少し異なります。
赤城乳業は、市場や競合、ターゲットなど細かく分析した資料をオリエンで受け取ります。「CMでこういうことを言ってほしい」という話はありません。その代わり、「話題にしてほしい」「店頭で名前を思い出してもらえるようにしてほしい」というゴールの共有はあります。僕らはそれを全部聞いて理解して、ではCMでは何が伝わればいいのかをシンプルに落とし込んだ考えと表現をセットで持って行きます。
一方、大日本除虫菊さんのオリエンは、「今回のCMで言ってほしいことは、これ」とごくシンプルです。例えば「タンスにゴンゴン」であれば「衣類防虫だけではなく、ダニ除け効果もあることを伝えたい」という感じです …