いま世の中で話題になっているCMをつくっているプランナーやCD。彼らはどんなことから企画を考え、映像をつくりあげているのか。足立茂樹さんがインタビューします。第一回目のゲストは、麻生哲朗さんです。

(左)聞き手・足立茂樹 (右)ゲスト・麻生哲朗
ドキュメンタリーの手法で撮影
足立:麻生さんが手がけた住友生命の生活保険「1UP(ワンアップ)」CMが「2017 57th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」の総務大臣賞/グランプリを受賞されました。おめでとうございます。住友生命さんの仕事はいつから始まったのですか。
麻生:3年前に商品広告の依頼が来ました。それが僕にとって初めての生命保険の仕事でした。オリエンに対してのプレゼンもしましたが、それとは別に「死」をテーマにした企業広告も提案しました。なぜなら生命保険のど真ん中をやろうとすると、本来は避けられないテーマだと思ったからです。
でも、これまでにそういう表現がないのは生命保険会社が自主規制しているのかと思っていたら、そういうわけではなかった。その案が通って、「dear my family」という企業広告シリーズが始まりました。その流れで、1UPの依頼が来たんです。この商品はネーミングからスタートしています。
足立:完成したCMはドキュメンタリータッチで描かれていて、生命保険のCMにはこれまでなかった撮影手法ですね。
麻生:CMの表現で僕が意識したことは、1UPという名前がポジティブに刷り込まれることと、「それが保険である」とわかることの2つでした。そのための今回の最適と思えた手法がドキュメンタリーであっただけで、「今までにないCMをつくろう」とは全く考えていませんでした。
足立:映像が"生っぽい"トーンに仕上がっていて、最初に見たとき驚きました。
麻生:今回はネーミングの段階から参加できたことが大きくて、企画段階から商品の性質をクライアントと話し合い、それに合ったキャンペーンの方向性を共有していたので異論はありませんでした。演出では、クライアントよりも現場のミキサーやカメラマンとせめぎ合いがありました。
ミキサーは音のプロなので、整音して音をきれいにしようとするんですが、そうすると面白くない。「ドキュメンタリーだから音は悪くてもいい。その分、字幕を入れるから」と伝え、きれいに仕上がった音を元に戻してもらったこともあります。
1UPの場合、インタビューシーン以外、ロケセットで撮影しています。例えば「店主の証言」篇は実際にある店を使い、カメラマンは主人公に近づくことなく、店の外から撮影しています。しかも、扉の淵と店名の文字の間から撮影している。それはドキュメンタリーだからで、「カメラは状況的にここまでしか行けなかった」ということを大事に撮影しています。
カメラマンにも「ドキュメンタリーだから全部、きちんと撮り切らなくていい」と指示して、とにかく環境のまま撮るということを徹底しました。スタッフには、そこを納得してもらうのに時間がかかりましたね …