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半導体加工工場から生まれた 全く新しいワイナリー

MGVs

半導体加工工場からワイナリーへと、異色の転換を遂げた山梨県甲州市の「MGVs(マグヴィス)ワイナリー」。オーナーから相談を受け、MGVsのクリエイティブディレクターを務めるMTDOinc.の田子學さんは、新たなワインブランドとワイナリーをどのように立ち上げたのか。

マグヴィス外観。半導体加工工場の設備を約6割転用した。右側の窒素タンクがワイナリーのアイコンになっている。
photo by Junya Igarashi

半導体加工工場からワイナリーに事業転換

今年4月、山梨県甲州市に「MGVs(マグヴィス)ワイナリー」がオープンした。経営を手がける塩山製作所の主力事業は半導体加工で、ワイナリーも以前使っていた半導体加工工場の設備を生かすダイナミックな事業転換を遂げている。塩山製作所の社長であり、現在マグヴィスのオーナーでもある松坂浩志さんとクリエイティブディレクターの田子學さんは、まだワイナリーの姿かたちも見えない頃に出会った。2015年秋のことだ。

「以前から山梨県工業技術センター(現 山梨県産業技術センター)に依頼されて、地元の産業の活性化に取り組んできたご縁で、担当者に松坂さんを紹介されました。半導体加工工場をワイナリーにしたいというオーナーがいるから相談にのってくれないかと。興味深いストーリーだと思いましたが、本当に実現可能なのかまだ半信半疑でした。とりいそぎ顔合わせはしたものの、本格的に動きだしたら連絡をくださいと伝えてそのときは別れました」。

田子さんの元に松坂さんから「準備ができたのでぜひ勝沼に来てください」とメールが届いたのは、2016年2月のことだった。「早速工場を訪れ、松坂さんになぜワイナリーをつくりたいのか、改めて話を聞きました。すると、半導体加工はコスト競争が激しく、松坂さん自身も生産拠点を国内からベトナムに一部シフトし始めており、今後はより目に見える形で生まれ育った勝沼や周辺地域に事業で貢献したいという思いがあると知りました」。

老人ホームなどの事業案もあったというが、松坂さんは元々大のワイン好き。もともと実家もブドウ農家であり、これまでも委託醸造でプライベートワインを作っていた経験があったことから、「すぐに利益になるものではないが、この事業なら一生をかけられる」と、半導体加工事業の一部をワイン事業へ転換しようと決めたのだった。

ワイン醸造事業を始めると決めたものの、ずっとBtoB事業を行ってきた松坂さんには、ブランドコミュニケーションの知識やノウハウがなかった。そこで、BtoCブランドの立ち上げのノウハウを持つパートナーとして田子さんに白羽の矢が立ち、オーナーとクリエイターの二人三脚のプロジェクトが幕を開けた。

試飲室。バーカウンターの後ろのチョークアートは、田子さんたちが毎月描き換えている。
photo by Junya Igarashi

改装前の半導体加工工場と、完成したワイナリー。
photo by Junya Igarashi(写真下)

ワインブランドとワイナリー体験をゼロから構築する

オーナーである松坂さんが最初に田子さんに依頼したのは、ワイナリーの名称だった。ワイナリーの名前であるMGVsは、「Matsuzaka Green Vineyards」の頭文字だ。

「マグヴィスは、松坂さんの実家のぶどう畑に隣接しています。ワイナリーとしては新参者でも、ぶどう農家としてのルーツや地域への思いを表現したいと思いました。また日川という一級河川沿いがロケーションなのですが、川沿いにはぶどう栽培に適した気持ちよい風が吹いています。ぶどう棚の下に佇むと、まるで緑色の風に包まれているようです。この心象風景を想起させたいという思いから、タグラインは『緑の風薫るワイナリー』としました」。

あわせて依頼されたのはショップのデザインだった。「垂直立ち上げでブランドをリリースしたいから、ワインができるまでの間にショップをデザインしてほしいという話でした。そのお話を聞いて、まずはオーダーの整理をする必要があると思いました。というのも、いかにも“工場”という空間の一角に売店があるだけでは、お客さまに満足してもらえない ...

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