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企業・社会を変えたクリエイターの発想

地域の再生を目指した神社のリニューアルプロジェクト

山名八幡宮

時代の変化と共に、訪れる人が少なくなっていた群馬県高崎市の山名八幡宮。次期宮司である高井俊一郎さんは、以前の活気のあった神社の姿を取り戻すべく、クリエイターに声をかけ、一大リニューアルを行った。

リニューアル後の山名八幡宮本殿。840年の歴史を持つ。建築家の永山祐子さんが空間のリニューアルを手がけた。
photo:OMOTE Nobutada

840年の歴史を持つ神社を再び地域の中心に

群馬県高崎市にある山名八幡宮は、室町時代、後醍醐天皇の孫がわが子の安産祈願をしたというエピソードから、「安産・子育ての宮」として知られている。その歴史は840年以上と古い。昨年10月に次の100年に向けた変革を行い、社殿や授受品などのリニューアルだけでなく、神社境内には親子カフェや天然酵母パン屋をオープンし、"親子が集まる場"へと変貌を遂げた。

リニューアルプロジェクトの発起人は、山名八幡宮の27代目宮司継承予定者であり、2007年から8年間、高崎市議会議員も務めた高井俊一郎さんだ。

「僕が子どもの頃、神社は近所の人たちが自然に手を合わせに来る場所でした。でも、だんだんと人が集まらない場所になっている、特に若い人が訪れなくなっている実感がありました。議員時代に安産祈願で有名な日本橋の水天宮に行ったところ、神社周囲にマタニティショップが自然に集まり、神社を中心に安産の街ができていました。それを見て、僕も山名八幡宮を起点とした安産・子育てのまちづくりをしたいと思うようになったんです」と話す。

2015年に議員を辞め、本格的に変革に取り組むにあたって意識したことは、神社の本来の機能を取り戻すことだった。「昔の神社は地域の集会所機能も備わり、自然に人が集まる場所でした。この機能を地域・地域で取り戻していかないと神社界全体に未来がないのではないかと思いました」。

そのために何をすればいいかと悩んだ高井さんが相談を持ちかけたのが、議員時代からの知り合いであるasobotの近藤ナオさんだった。

「僕がシブヤ大学のつくり方講座をしている時に、受講生として来ていたのが高井さんでした。そこで知り合って以来、高崎のまちづくりの仕事をたびたびお手伝いしてきました。今回、高井さんから話を聞いて、地域に集まれる場所がなくなっている現在、神社を人の集まれる場所にすることには大きな意義があると感じました。神社は全国に8万社あり、コンビニよりも数が多いと言われていますから、神社が変われば、地域のあり方も大きく変わる可能性があります」。

山名八幡宮の建つ高崎市南八幡地域は、市内中心からはやや離れており、以前は"多野郡八幡村"という山名八幡宮が中心のエリアだった。これまで市街地を中心にまちづくりを手がけてきた高井さん、近藤さんにとっても、新たなチャレンジとなった。

境内で営業する天然酵母のパン屋「PICCO LINO」。
photo:KURIHARA OSAMU

「安産・子育ての神社」をリニューアルの軸に据えて考える

2人が最初に行ったのは、神社再興とまちづくりの未来図をつくることだった。「高井さんが考えていることをヒアリングして引き出しながら、ビジョンを一緒につくっていきました。さらにそれを、継続可能なビジネスモデルに落とし込んでいきました。神社の主な収益はご祈祷と授受品の販売の2つです。例えば『神田明神なら商売の神様』というように、特色がなければ、来てもらえませんよね。そこで山名八幡宮では以前から言われていた、『安産・子育て』を際立たせていこうと考えました」。

今回のリニューアルは、本殿をはじめとする「祈りの場」のリニューアルと、地域の人々が集う「活動の場」のリニューアルに大きく分けられる。最初に着手したのは「活動の場」の一環として、境内にキッズ・マタニティカフェ「mico cafe」をオープンすることだったという。

「祈りの場のリニューアルは、きちんと時間をかけて準備をした上で着手すべきと思ったので、安産・子育ての神社としてお母さんたちに日常的に集まってもらえる場所をまず用意することから始めました。境内にあった結婚式場を改装し、子育て中の専業主婦だった高井さんの奥さんの映美さんを中心に運営してもらっています。身内で始めることで早くスタートでき、他のプロジェクトもまだ始まっていなかったので、僕と高井さんで手厚くフォローもできました」と近藤さん。

今ではmico cafeは地域のおしゃれなお母さんが集まるカフェとして、ベビーダンスやベビーマッサージなどのイベントで賑わっている。その後、子どもが自由に遊べる広場を作る「あそびばプロジェクト」も始動し、親子で来られる場を増やしていった ...

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