テレビ、CM、PVなど映像表現の分野では欠かせない存在になりつつあるドローン。近年では映像表現だけではない活用が見込まれ、さまざまな産業にも広がっている。そんなドローン撮影のクリエイターとして第一人者である坂口博紀さんに、これからのドローンの可能性を聞いた。
ドローンで広がる写真表現の可能性
大阪芸術大学写真学科では、ドローンを使った撮影技術と表現を学ぶことができるカリキュラムを来年度より導入予定だ。そこで今年、オープンキャンパス、そして写真学科の特別授業においてドローンによる空撮の体験会を実施した。その体験会において、実技、座学による講義を行ったのは、ドローン撮影クリエイターズ協会代表理事である坂口博紀さんだ。
広告、ファッション分野のフォトグラファーとして活躍していた坂口さんが、ドローンに本格的に取り組んだきっかけの一つは、2012年のロンドンオリンピック。その報道を見たとき、ある危機感を抱いたという。
「新聞社のフォトグラファーが巨大な望遠レンズ付きのカメラで撮影している横で、ロイターのフォトグラファーはカメラをジョイスティックで動かし、パソコンで撮影画面を見ていたんです。彼のカメラは競技場の上部に設置されていて、競技者の真上から撮影できるようになっていた。それを見たときに、普通にカメラを抱えて撮影するフォトグラファーの限界を見た気がしました」。
当時、坂口さんはすでにドローンを活用していたが、その撮影技術をさらに究め、ドローン撮影クリエイターズ協会を設立。現在は映像制作の他、ドローンオペレーターやクリエイターの育成、新たな活用やソフトウェアの開発に取り組んでいる。
近年、ドローン撮影は映像表現のみならず、災害の現場、自然環境のリサーチ、大型設備や危険が伴う場所の点検・測量業務、物流などでも活用されている。しかし、ドローンの知識と民間資格を持ち、操縦ができる人はまだ少なく、特に20代、30代の人材はほとんどいないのが現状だ。
「これまでのフォトグラファーが参入できなかった領域や産業にも、その技術は通用し、いま一番求められています。これまでの経験では、写真撮影の知見がある人は、ドローンを操作するプロポ(送信機)をカメラ同様うまく扱うことができ、ビジュアルとしても精度の高いものをつくることができます。そういう意味では、こうした技術を若いうちに身に付けることで、さまざまなビジネスチャンスをつかむことができる。例えば写真学科を卒業して、ゼネコンに入るなどまったく違う業界に行くことも可能になると思います。これまで女性が入りにくかった現場なども、ドローンによる撮影で可能になるケースも出ているので、ぜひ女性にも取り組んでほしい」。
来年度から始まるカリキュラムでは撮影技術だけではなく、ドローンを使っての写真表現、クライアントとの交渉、予算の使い方などマネジメントについても、きちんと教えていきたいと、坂口さんは構想を話す。「映像、ステージングなどのさまざまなビジュアル表現をつくりあげるツールとしても、ドローンはこれまで以上に求められるようになると思います。写真学科だけではなく、アートサイエンス学科など、学科を超えて技術を学んでもらえることで、新しい表現が生まれてくることを期待したいですね」。
編集協力/大阪芸術大学