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PR発想で進化する広告クリエイティブ

世界のアワードから学ぶ優れたクリエイティブPR事例

本田哲也(ブルーカレント・ジャパン)

海外では、どのような事例がクリエイティブPRの優れた事例として評価されているのか。世界のアワードから、日本の広告クリエイターが見るべき作品をブルーカレントの本田哲也さんにピックアップし、解説してもらった。

SSGA「Fearless Girl」
国際女性デーにウォール街に突如現れた少女の銅像。有名な雄牛の銅像(チャージング・ブル)の前で、女性の力を象徴する存在として、瞬く間にSNSを通じて拡散された。クライアントは女性リーダーを支援する投資するファンドを設立した投資会社SSGA。今年のカンヌライオンズでPR部門を始めとして4冠をさらった。

なぜクリエイティブにPR発想が必要なのか?

クリエイティブにもPR発想が重要──最近よく耳にする言い回しだ。何となくわかったような気にはなるけれど、はたしてその意味するところを本当に理解しているだろうか?「バズらせるクリエイティブってことだよね」「ネットニュースで取り上げられるクリエイティブ」「話題性のあるクリエイティブ」──こんな声も聞こえるけれど、残念ながらどれも本質じゃない。僕の感覚としては、まだまだ「クリエイティブ自体をPRで話題にすること」という意味に捉えている業界人も少なくないように思える。

とりわけ、いまだに自分の仕事を「作品」だと認識しているクリエイター(だいぶ減りましたが)に顕著な傾向かもしれない。ここではっきりさせておこう。「PR発想のクリエイティブ」とは、結果としてのクリエイティブ(表現作品)をパブリシティで世に広げることではない。むしろ逆だ。「世の中に広がるようなアイデア」を生み出すクリエイティビティ(創造性)のことである。

そもそもPRとは何か。僕流に定義すれば、PRとは「世の中を舞台にした情報戦略」であり、「ある情報を社会に増幅させる企て」だ。そしてその目的は「人を動かすこと」にある。クリエイティブの真の目的も同様だろう。「話題になるクリエイティブ」がエラいのではなく、「人を動かすクリエイティブ」がエラいのだ。ここに、PR発想クリエイティブの本質がある。企業やブランドの一方的な表現性だけでは人が動きにくくなった今、その重要性が増しているということなのだ。

前置きが長くなった。ではPR発想クリエイティブとは、実際どのようなものを指すのか。ここでは2つのアプローチ―「借景のクリエイティブ」「とんちのクリエイティブ」―を、世界のPRアワードを受賞したキャンペーンを通じて解説しよう。

「借景」のクリエイティブ:既存の社会文脈を活用したストーリーの創出

ひとつめは、既存の社会文脈を活用するクリエイティブ、いわば「借景のクリエイティブ」だ。借景とは、「庭園外の山や森林などの自然物などを庭園内の風景に背景として取り込むことで、前景の庭園と背景となる借景とを一体化させて景観を形成する造園技法」(ウィキペディア)。

僕たち日本人にはなじみ深いが、実は世界の優れたPRキャンペーンには、こうした「借景」的なアイデアが少なくない。キャンペーンが自前の「庭園」だとすると、そもそも存在する世の中のコンテクスト(文脈)という「自然物」を活用し一体化させる。そうすることで、自然な社会性や話題性が担保されるわけだ。2つほど事例を紹介しよう。

「チャージング・ブル」といえば、ニューヨークのウォール街にある巨大な雄牛(ブル)の銅像。今にもチャージ(体当たり)しそうな荒々しいブルは株式市場のエネルギーやパワーの象徴で、マンハッタンの観光名所でもある。米投資会社のState Street Global Advisoryは、このブルに真っ向から立ち向かう構図で「Fearless Girl(恐れを知らない少女)」と呼ばれる銅像を設置。女性の活躍が限られ、ジェンダーイクオリティの課題が大きい金融業界に一石を投じた。

このキャンペーンはたった12時間でTwitter10億リーチを達成し世界中の話題となり、同社が運用する女性活躍を指標にした「SHEファンド」の売り上げは384%向上した。PR部門をはじめ4つのグランプリを受賞し、今年のカンヌを代表する作品となった「Fearless Girl」は、男性的な象徴であるチャージング・ブルを大胆に「借景」した。少女像それ自体がクリエイティブなのではなく、設置した場所を含めた文脈設計が秀逸なのだ ...

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