「加賀市新幹線対策室」の熱血漢の室長らが2023年の北陸新幹線誘致を目指すドラマ仕立てのムービーが公開され、話題を集めている。このムービーの誕生した背景には、地方動画をパブリックな関心事に転換するための戦略があった。
新幹線というパブリックな話題の波に乗る
石川県加賀市はプロジェクトムービー「加賀市新幹線対策室 Season1」を8月末に公開した。2023年に北陸新幹線が金沢から敦賀まで延伸するが、加賀温泉駅はその中間停車駅の最終候補に残っている。本ムービーは加賀市新幹線対策室長の加賀停太郎と所属メンバーが、全便停車の実現に向けさまざまなアイデアを出していくドラマ仕立てのストーリーだ。室長以外のメンバーは加賀市民や市職員が出演している。ムービーのサブコンセプトは「金沢みたいになりたい」で、自虐的な内容を全力で演じ、注目を集めている。
そもそもの加賀市からの依頼は「加賀の温泉をテーマに、PR動画を制作してほしい」というものだったという。
ドリルのクリエイティブディレクター 田母神龍さんは「今や地方動画は蔓延していて、見る方も食傷気味です。温泉というテーマも埋もれてしまいがちだと思いました。そこで市長にまず『温泉をNGにしませんか』とお伝えしました。さらに『一過性で終わらせない、継続性のあるテーマを探しましょう』とお話しました。動画は短期の施策になりがちです。動画を作るという考え方を一度捨てて、継続性のある枠組みを作って、その一部に動画があるという形にしませんかと提案したんです」と話す。
その中で、目をつけたのが北陸新幹線延伸というトピックだ。延伸が決まっているが、間の停車駅は決まっていない。しかも加賀は最終候補駅に残っている。社会的な関心も集めやすく、長く続くフレームにできると考えた。加賀市の中にも、停車駅に同様に名乗りを上げるライバルの小松市に先手を打ちたい思いがあり、話を進めることになった。
企画・コピー・プロデュースを担当した電通の吉田翔彦さんは「加賀に新幹線を停めたいというだけでは、注目を集めるにはまだ弱い。そこでさらに、知名度がある金沢を引き合いに出し、話題化を図ろうと考えました。新幹線誘致というパブリックな話題の波に乗り、金沢に対して負けている加賀を認識してもらう。作りたかったのは加賀市頑張れ!と応援してもらうムードや文脈です」と話す。
あえて自虐的な演出にしたのは、金沢の人たちからも、加賀を応援してもらう狙いもある。広く世の中のムードをつくっていくことはもちろん、加賀市民をインナーから盛り上げ、さらに同時にJRや国土交通省の心象も変えていくことを狙っている。
ほかの地域も巻き込んで誘致合戦を盛り上げたい
加賀市の中には「加賀市新幹線対策室」という部署が実在しており、その存在を知ったことがストーリー着想のヒントになった ...