今年9月、「注文をまちがえる料理店」というユニークな名前のレストランが都内に3日間限定でオープンし、盛況のうちに終了した。認知症について知ってもらい、寛容さを社会に広げていくための企画だ。
取材で見た原風景を再現したい
「注文をまちがえる料理店」は、その名の通り、オーダーや配膳を時々間違えてしまうレストランだ。ホールスタッフは全員認知症。間違いがあっても笑って許そうよ、という気持ちを広めることで、認知症への理解や寛容さを社会に広げていくコンセプトで企画運営されている。
発案者である小国士朗さんは、テレビ局のディレクター。以前担当していたドキュメンタリー番組の取材中に出会ったある風景が、この料理店を生むきっかけになったという。
「認知症介護のプロフェッショナルの和田行男さんを取材した時に、グループホームで認知症の方が作る料理をご馳走になる機会がありました。その日の献立はハンバーグでしたが、出てきたのは、なぜか餃子。あれ?と一瞬間違いを指摘しそうになりましたが、ふと『ハンバーグが餃子になったって、別にいいんじゃないか?』と気づいたんです。おいしければ、どっちだっていいじゃないと。その時、『注文をまちがえる料理店』というアイデアがぱっと浮かんだんです。どうしても、認知症というと徘徊したり暴言を吐いたりとネガティブなイメージがあります。もちろんそういう側面も厳然たる事実としてありますが、和田さんのグループホームでは、認知症によって生じるさまざまな“ズレ”を専門家が適切にサポートすることで、ごく当たり前の暮らしを実現していました。その風景に出会ったことで、自分の中の認知症に対する考え方が大きく変わったんです」。
認知症の人と普段接する機会がないで人も、同じような体験をすれば、認知症を受け入れる風景が世の中に広がっていくのでは──そんな思いで料理店のアイデアを温めてきた。
構想開始から5年が経過した昨年11月、小国さんは実現に動き出す。介護のプロの和田さんをはじめ、メゾンカイザーの木村周一郎さん、ヤフーの岡田聡さん、TBWA\HAKUHODOの近山知史さんなど各分野のプロに声をかけ、実行委員会を発足。そして、半年後の6月には2日間のプレオープンを果たした。さらにそこからクラウドファンディングで広く支援を呼びかけ、9月には一般客が入れる形で、3日間開催し、大盛況のうちに終了した。
「認知症」という言葉をあえて使わない
多くの人にこの料理店を受け入れられるものにするために、小国さんが意識したのは、レストランをあくまで前面に出し、「認知症」と言わないことだった。「『認知症レストラン』など最初に認知症と言ってしまうと、誰もが気軽に来られなくなってしまいます。最初から啓蒙活動だと振りかぶると、『不謹慎だ』という声が出る可能性もある。だから、ここはあくまでレストランで、たまたま認知症の方が接客をしていて、時々間違えることもある、という順番で設計しています」 ...