いかに短く、キャッチーな言葉で、話題になるネーミングを行うか。最近話題の商品・サービスのネーミングを見ると、一貫してそのような視点が感じられる。SNSについ書き込みたくなる言葉、メディアが取り上げやすい言葉、ネーミング自体に視点や問題提起が含まれている言葉――。SNS時代になり、ネーミングにも新たな黄金ルールが生まれているのではないだろうか。今回の特集では、さまざまなジャンルのネーミングの生みの親に、どんな狙いを持ってネーミングを行ったのかを取材。今の時代に効くネーミングの作法を明らかにする。
「モテマスカラ」や「モテライナー」など、キャッチーなネーミングの商品でヒットを連発する化粧品メーカー「フローフシ」。その商品開発とネーミングには、必ず“3つの要素”が通底しているという。
「モテマスカラ」からはじまった
フローフシは2010年に化粧品とは縁のない異業種出身の2人が立ち上げた化粧品ベンチャーだ。2人は2011年に最初の商品「モテマスカラ」で市場に参入した。代表の桑島正幸さんは「僕は前職が機械系で、もう1人の創業者である今村洋士は医療系の出身です。2人とも『世の中にないものをつくりたい。新しいものに挑戦したい』という気持ちがあり、起業を考えていました。
化粧品業界はあらゆるメーカーがひしめいていますが、実はライナー1つとっても、『きれいに描けて、長く持つ』という女性の願いに応えられる製品がない。これは勝てるカテゴリだと考えて、化粧品業界での起業を選択したんです」と話す。
同社の開発したモテマスカラは、マスカラとまつ毛ケアが同時にできる点に新しさがある。今村さんが医療界で働いていた時に出会った「エンドミネラル」(血流促進効果や殺菌・抗菌効果のある鉱石)を配合することでそれを実現している。2011年の発売当初から、その機能性とキャッチーなネーミングにより売れ行きは好調ではあったが、「爆発的に売れるほどではなかった」と桑島さんは言う。
「キャッチーな名前のおかげで認知は広がったのですが、その一方で、その名前が多くの人に使ってもらう障害になるとも思っていました。40~50代の女性の方は『モテマスカラを使っている』とは、口に出して言いにくいですよね。僕たちは3年で日本一になることを目標に起業したので、2013年頃には名前を変えることまで考え悩んでいたんです」。
だが、ネーミングを変更すれば、それまでの販売実績を捨て、またゼロからのスタートになってしまう。そんな時、canariaのアートディレクター 徳田祐司さんに出会った。
「僕たちにとっての理想は、モテマスカラという名前が“固有名詞”になり、そのままの名前でもおしゃれに見えるようになることでした。でも、実現できる人はいないだろうとも思っていました。でも、その話を聞いた徳田さんが、『名前はそのままで、デザインの力だけでできますよ』とその場で即答してくれたんです」。
徳田さんは当時を振り返って次のように話す。「『プチプライスカテゴリーだけど、自分たちのブランドをなめられないブランドにしたい、格上げしたい!』と。そういったユニークでプライドのあるポジションを、モテマスカラの名前のまま、デザインの力で実現できると思いました。
弊社の社名canariaもそうですが、元々ある言葉の意味を壊して、新しい意味をつくるのもネーミングの醍醐味。それこそシャネルやディオールと並んでも遜色のないブランドにしようじゃないかと、一緒に取り組むことにしたんです」。
フローフシと徳田さんは、ここからモテマスカラのラインナップのフルモデルチェンジを実施し、2014年にはマスカラ日本一(ケア成分配合カテゴリ)をついに達成した。さらに、2015年にはマスカラの最高峰「モテマスカラONE」を一緒に開発した。
以降、フローフシの2人と徳田さん、canariaのメンバー、OEM担当者による少人数の開発チームで、商品開発を行っている。
「Function」「Fashion」「Fun」3つの「F」をすべての商品に
「モテマスカラ」という名前は一見シャレのようだが、実はマスカラの起源にさかのぼって真剣につけられたネーミングだという。「化粧品メーカー『メイベリン』の創設者の妹にメイベルちゃんという子がいて、その子の恋を成功させるために、妹のまつ毛を石膏で黒くメイクをしてあげたのがマスカラの起源だと言われています。だから、モテマスカラは、マスカラの本質に基づいた名前なんです」(桑島さん) ...