資金調達や戦略構築などスタートアップに対する経営支援を行い、その成長を支えていくベンチャーキャピタル(VC)。それぞれの成長フェーズにふさわしい広報・広告戦略を、VCはどう考えるのか。また、外部パートナーとして広告クリエイターと組む場合、どのような形が理想的なのか。グロービス・キャピタル・パートナーズの東明宏さんに話を聞いた。
スタートアップは"人"なり
──スタートアップの成長戦略の中で、広報や広告戦略はどのように組み込まれているのでしょうか。
事業のフェーズや、BtoC事業を行う会社なのか、それともBtoB事業なのかなどによって、適切な選択肢は変わってくると思います。拡大フェーズに入ってきたBtoC事業であれば、広告活動を行い、ユーザーとなる人たちに知ってもらうことで成長できます。
例えば当社の投資するフリマアプリのメルカリ、レシピ動画のエブリー、ニュースアプリのスマートニュースなどはテレビCMを実施しています。一方、広告を打ちたくても打てない会社も当然あります。その場合は広報や手の届く範囲のプロモーションでサービスを広げていき、資金調達を行って、大規模なプロモーションに踏み切る、ということになります。
広報活動もスタートアップには有力な手段です。スタートアップというのは、そもそもが世の中でまだ解決されていない課題にアプローチするためにつくられていることが多い。であれば、その課題を切り口に、メディアに取り上げてもらうことができます。社長が自ら、世の中にある文脈で創業ストーリーを語ることでPRになります。例えば投資先のランサーズは、複業やテレワークなどの新しい働き方が社会的に注目される中で、働き方をテーマにした取材を数多く受けています。
──スタートアップは、広報・広告戦略に関して、どんな課題を持っているのですか?
当社では「HR」(人材採用支援)、「IR」(上場に向けたストーリー構築の支援など)、「PR」(記者会見の開催やプレスリリース作成支援など)の「3R」を通じ、投資先スタートアップの支援をしています。立ち上げ直後のスタートアップは、経営者が自らこの「3R」を回しているような状態です。専門人材がおらず我流で何とか乗り切っていたり、あるいは戦略までは描けても実行の部分を担える人材がいないなど、課題は山積しています。
もちろん私たちの方でも必要に応じて経験のある人材を入れるようにしていますが、圧倒的に広報や広告を担う人材は不足しているのが現状です。
──広告クリエイターの中には、スタートアップと一緒に仕事をしたい、コミュニケーションの面で力になりたいと考える人も多くいるようです。
興味を持って問い合わせをくださる方は実際多いんです。ありがたいのですが、問題のひとつは、スタートアップには潤沢な予算がないということです。そのため、十分な報酬を用意できず、なかなか仕事として成立しづらい。「アイデアはあるがお金の出どころがない」という課題は散見されます。
──レベニューシェアなどのビジネスモデルで、そこにチャレンジしようとしているエージェンシーも生まれていますよね。
確かに、それで仕事を実現させた例も生まれていますね ...