IDEA AND CREATIVITY
クリエイティブの専門メディア

           

私のクリエイティブディレクション論

アートの体験を通して人間の価値観・行動を変えていく

猪子寿之

2016年末から2017年初めにかけて、「ウォールストリートジャーナル」「ルモンド」「CNN」など海外のメディアがこぞって紹介したのがチームラボ。ここ数年、アートからクライアントワークに至るまで、さまざまなクリエイションを次々と世の中に打ち出している。その創造の背景には、何があるのか。代表である猪子寿之さんに聞いた。

――昨年はシンガポール国立博物館の常設展示「Story of the Forest」がオープンし、話題を集めました。この作品や「未来の遊園地」など、チームラボの作品では「教育」が大事な要素になっています。

僕らが大事にしているのは、学校や社会で教えてくれる一般的な教育ではなく、人間そのものに関わること。ある作品を体験してもらうことで、人間の脳を拡張したり、これまで引き出されていなかった部分を引き出したり…。例えば「未来の遊園地」の作品は共同的で創造的な体験、つまり「共創」の体験をテーマとしています。

「未来の遊園地」は子どもたちに自分の創造性を発揮してもらう空間であると同時に、自分のコントロールがきかない自由な他者と共に一つの世界をつくる体験をしてもらう空間でもあるのです。なぜなら、世界と自分の間に境界があると考えている人は、横にいる他者との間にも境界があると思っている。でも、実際に人間は敵でも味方でもない他者と共に、あらゆる体験を通してこの世界について学んでいるわけです。そして、そんな他者と共に創造的な成果を生み出し、社会を発展させて、世界をつくり続けているわけですから。

ここで体験することは、おそらく学校では学べないことです。自分の世界が他者と共通のものであり、他者とのかかわりによって世界が変わっていくことを理解できれば、世界が変わっていく。それを感じてもらうことが、人間にとって重要な体験であると考えています。

シンガポール国立博物館「Story of the Forest」。

――各プロジェクトを、猪子さんはどのようにマネジメントしているのですか。

マネジメントはあまり得意ではないんです(笑)。僕自身はアートや新しいことには強くコミットしていますが、ビジネスはほぼ関わっていません。どのプロジェクトも基本的には各チームに任せています。そのようにできるのは、チームラボはさまざまなプロジェクトを構造化し、抽象化することで、全員が共有することを目指しているからです。

チームラボではすべてのファイルをローカルに保存せず、ネットワーク上に保存しています。みんなで一つのファイルをつくっていて、そこにあるものは誰が使ってもよいことになっています。技術の詳細もあれば、3DCGでつくったパーツ、3D上でのカメラの動かし方、機材の良し悪しの情報もある。それこそアイデアレベルのメモまで全部共有され …

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