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青山デザイン会議

「正しいデザイン」って何だろう?

居山浩二×長岡勉×角田陽太

「いいデザイン」って何なのだろう?─そう思って、近年のグッドデザイン賞の入賞作品を振り返ってみると、年を追うごとに「活動」のデザイン、「プロジェクト」のデザインが増えていることに気づきます。かつてのように「ひとつの突出したデザインが主張する」時代ではなくなり、デザインが対応する領域が広がった現在、その定義を一つに絞るのは難しくなっているように思います。おそらく20年前の「いいデザイン」と今年の「いいデザイン」を比べてみれば、「いい」が持つ意味は変わっているはずです。では、デザインの領域が多様化したいまの時代において「いいデザイン」とは、どんなものと言えるのでしょうか。
今回の青山デザイン会議は、そんな問いからスタートしました。参加いただいたのは、マスキングテープ「mt」のブランドを確立し、海外のデザイン賞を数多く受賞している居山浩二さん、普遍的なデザインのプロダクトに定評がある角田陽太さん、そして小石川にシェアスペース「ハーフ ハーフ」を設けた建築家 長岡勉さん。それぞれの仕事を通して、いまの時代におけるデザインの本質とは何かを考えました。

Photo:parade inc./amanagroup for BRAIN

2016年によかったデザインは?

長岡:2016年を振り返ってみると、個人的に「デザイン泥くさ元年」と呼んでいます。その代表とも言えるのが、野老朝雄さんの東京五輪エンブレムとグッドデザイン大賞を受賞した鳴川肇さんの「オーサグラフ世界地図」です。2人とも仲のいい友人でもあるのですが、共通するのは一つのことを深く探究し続けきた点で、よい意味で泥くさく続けてきた活動が、結果として大きな評価につながったと思います。

野老さんは幾何学の文様を追求してきたわけですが、その展開の可能性とスケーラビリティが評価され、エンブレムに採用された。鳴川さんは立体や空間をどのように平面に展開するのかをずっと探究してきた人で、それが新しい地図図法を生み出した。そんな友人2人が大きな賞を受賞したことは、僕にとってビッグニュースでした。

角田:僕が最近いいと思ったのは、iPhone7ジェットブラック。形は6からあまり変わっていないけれど、アンテナ、ボディ、スクリーンの色と仕上げを揃えて、1つの物体として捉え、モノとして一気によくなった。さらにAppleでいうと、11月に発売された作品集『Designed by Apple in California』。ラージ版を見てすぐに購入しましたが、これまでのApple製品の中で一番いいと思ったほど、素晴らしい本でした。

居山:僕もすぐに買いましたが、手にした瞬間に、その価値を認識しました。箱を開けるプロセスが他のプロダクトと考え方が同じで、それがまたよかったですね。

角田:僕にとっては本もプロダクト。自分の作品集『Yota Kakuda Neutralize』も、その考えでつくっています。Appleの作品集は印刷のクオリティも高く、プロダクトとしての完成度の高さやモノとしての新鮮さは抜きんでていると思いました。

居山:僕は2016年度D&AD賞でブラックペンシルを受賞したwhat3words「The World Addressed」が印象に残っています。3つの単語を組み合わせることで、世界にまだある住所を持たない地域を特定できるアドレスシステムです。具体的には、世界を3m×3mのグリッドで分けて、そこに3つの単語を組み合わせて登録すると、それが住所のような役割を果たし、荷物などを送ることができる。表現の評価主体の日本のデザインコンペでは評価されにくいかもしれませんが、こういう仕事こそ意義のある、いい仕事だと思いました。

デザインには必ず「解」がある

角田:僕は昔から古いものが好きで、時代に関係なく、いいと思ったものを買っています。最近は自分が眼鏡をデザインしていることもあり、ヴィンテージの眼鏡はよく購入します。

先日も講師をしている武蔵野美術大学の学生を蚤の市に連れて行き、彼らにも「古いものに興味を持ちましょう」と教えました。

なぜかと言えば、もともと新しい情報を進んで取りに行くタイプではないこともありますが、蚤の市に出ているようなものには愛着を感じるからです。つまりそこに並んでいる時点まで、ずっと捨てられずにいたもので、よく言えば歴史を勝ち抜いてきたもの。純粋にモノとしていいので、そこからインスピレーションを受けるし、製造やデザイン面でも自分としては学ぶべきところがたくさんあるんです。

長岡:角田くんとは古い付き合いなのですが、その仕事や発言を振り返ってみると、イノベ―ティブな形よりもコンマ何ミリの微細な形や角度にこだわっていますよね。そうやってつくられたプロダクトだから、自ずと日常に馴染むものになる。そして、「これは自分のデザイン」と主張するデザイナーが多い中で、角田くんがつくったとは気づかれず、当たり前のように使われるようになる。その感じってある意味、『道具』をつくることに近いのかなと思います。

角田:その通りで、僕はデザイナーの名前はいらないし、誰がデザインしたかは関係ないと思っています。それよりもつくったものが長年愛されていくことが重要ですね。

長岡:乱暴だけど、最大の賛辞を角田君に贈るとすると、『エステティック(審美的な)職人』だよね。

角田:確かに、僕は職人的に仕事をしているかもしれませんね。ただイノベーションは不要と思っているわけではないし、新しいものもつくっているつもりです。すべてはいいデザインをつくるための考えであり、新しさを全面に押し出すつもりはないということです。

居山:僕もイノベーティブなものをつくりたいという気持ちもありますが、それよりも「意外とこういうものなかったな」ということに気づいて、形にできる喜びの方が大きいかもしれません。手に取った人にそのことを感じてもらえるのは本当にうれしい。

角田:僕も同じです。デザインって何かすごいものを見せたり、打ち上げ花火的にとらえられがちですが、僕が一番うれしいのは、自分がデザインしたものを近所のおばあちゃんが当たり前のように使っているところ。でも、居山さんのいる広告の世界は、打ち上げ花火のように、一瞬で人を喜ばせることも求められそうですが。

居山:広告の場合、ミッションを成し遂げるためには、それも必要です。ただ、僕の根底にはそれだけではダメという思いもがあるので、打ち上げ花火の方法と同時に継続性のある提案もするようにしています。

長岡:建築の場合、ハードとしての空間は残っていくし、プロダクトであれば道具としての在り方を突き詰めて行けば成立する世界です。でも、広告はコミュニケーションの世界だから、依存するものがありませんよね。居山さんはさまざまな方法で「人を幸せにする」「人の気持ちを上げる」ことにトライされていると思いますが、自分の中で一番大事にしていることは何ですか?

居山:コミュニケーションを形づくる際には必ずお題があって、そのお題を元に届けたい人に届けるために何をすべきかとプランニングしていきます。このお題の中にこそ、ヒントや答えが内包されている。

例えばミネラルウォーター1つとっても、どこの水なのか、ボトルの素材、形状など、捉える側面は複数あります。そのうちのどこをピックアップすれば伝わりやすいかを考えることがとても重要。発想は降ってくるわけではないんですね。むしろ目の前にある商品にこそ答えがあると思いながら、つくっています。

角田:デザインはアートと違って答えがある。X、Y、Z軸の3つが交わる点が「解」で、それを見つける瞬間が気持ちいいし、やっててよかったと思います。逆に言えば、デザインには必ず解がある。デザインについて語るときに、よく「いい」「悪い」が基準になりがちだけど、実のところ「正しいデザイン」と「そうじゃないデザイン」ではないかなと思っているんです。「いいデザイン」はどこか感覚的で、本当の解がそこには見えにくい。そうではなくて、解がある「正しいデザイン」こそ、僕らが勝負すべきものではないかと思っているんです。

    KOJI IYAMA'S WORKS

    国内外で開催されたmtのインスタレーションより。VitraやJINS、花やしき、岳南電車など、さまざまなブランドや企業とのコラボレーションを展開しているほか …

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