カップヌードル「OBAKA's UNIVERSITY」シリーズ、「10分どん兵衛」など、マス・デジタル問わず“攻め”の広告を連発している日清食品。そのプレゼンの現場では、一体何が起きているのか?日清食品ホールディングス宣伝部の佐野正作さんに聞いた。
企画で注目する3つのポイント
私は日清食品ホールディングスの宣伝部でカップヌードルの広告を8年間担当した後、現在はどん兵衛を担当しているほか、マネージャーの立場で全ブランドを見ています。日清食品では、基本的にクリエイターから各ブランドの宣伝担当者が企画のプレゼンを受け、何度かのやり取りを経てブラッシュアップしていきます。テレビCMの場合、最終的には日清食品ホールディングスの安藤宏基CEOをはじめ、日清食品の営業、マーケティングの担当役員が一堂に揃った場所でプレゼンをしてもらいます。
クリエイターから提案される企画の内容で私たちが注目している点は次の3つです。
(1)「ファーストエントリー」なのか
(2)アイデアが商品に結びついているか
(3)日清食品らしいユニークさがあるか。
順に説明すると、まず日清食品は「誰もやっていないことを先駆けてやる!」というファーストエントリーを常に目指しているので、過去に前例のある企画や他社と似ている企画には、面白いという印象を受けません。
一方で、ファーストエントリーで面白ければ何でもいいわけではありません。それが商品の販売にどのように結びつくかが重要です。例えば、「10分どん兵衛」という企画があります。これはマキタスポーツさんがブログやラジオで「どん兵衛はお湯を注いでから5分後に食べることを推奨しているけど、僕は10分経ってから食べるのが好きだ。そのほうが麺がツヤツヤでツルツルになっておいしい」とメッセージを発信されたことをきっかけに、ネットを中心に大きな話題になったものです。
メーカーとしては「いえ、5分が一番おいしく食べられます」とお答えしたいところですが、実際に試してみたところ、確かにおいしい。そこで、ホームページに「10分どん兵衛のことは知りませんでした。5分に縛られすぎていました。反省しています」という内容のお詫び文を出したんです。その結果、多くの方に「10分どん兵衛ってそんなにおいしいの? 一度食べてみたい」と思っていただき、どん兵衛の売上が大幅に伸びました。毎年、年末になると「年越しそば」が食べられるので、当社でもどん兵衛の天ぷらそばがよく売れるのですが、2015年末は「10分どん兵衛」の影響できつねうどんが品薄になるという想定外の出来事が起こったほどです。これは最初から狙ったわけではありませんが、うまく商品販売に結びついたケースです。
また、2016年にカップヌードル初のパスタとして発売した「カップヌードル パスタスタイル」も好例と言えます。カップヌードルブランドからパスタを発売したと普通に伝えるだけでは、簡単に商品を手に取ってもらえないと思ったので、商品を持ってパスタ発祥の地であるイタリア・グラニャーノへ行き、現地の方157人に試食してもらい、「パスタとして認めるか?」とインタビューをしたんです。その結果、予想に反して86%が「パスタではない」と回答しましたが、それを逆手に取って「イタリア人が認めなかったパスタ。気にせず、新発売。」というコピーで打ち出しました。すると、「どのぐらいパスタとかけ離れてるんだろう? 食べてみよう」と思ってもらえ、購買行動につながりました。このように商品を手に取ってもらう環境をうまくつくることが、1つのポイントですね。
3つ目に挙げた「日清食品らしいユニークさ」ですが、私たちは単に商品をアピールするだけでなく、「ツッコミどころがあるか」「一緒になって楽しんでもらえるか」など、ターゲットとなる若者に対してコミュニケーションを図れているかを大事にしています。2016年12月にスタートした「どん兵衛×ラッセン かき揚げを、描きあげる」がそのいい例です。私たちからすると商品がおいしいことは当たり前で、ただ「かき揚げがおいしい」と言うだけでは面白くありません。著明な画家であるクリスチャン・ラッセン氏にどん兵衛 天ぷらうどんに入っているかき揚げを真剣に描いてもらうことで、「ラッセンが描きたくなるほどおいしいかき揚げってどんなだろう?」と思ってもらえたら幸いですし、そもそも「何なの、これ?」と突っ込みどころが満載ですよね(笑)。そこが“ 日清食品らしさ”で、今はSNSの時代ですから、「突っ込みどころがあってシェアされる企画か」というポイントも重視しています。
カップヌードルのCM「OBAKA's UNIVERSITY」シリーズは、「CRAZY MAKES the FUTURE.」のコピーの通り、「何かに夢中になって、バカになる力」「たとえ失敗をしても、這い上がる力」の2つのチカラを応援したい、というメッセージを込めていますが、これをビートたけしさんが普通に言っても面白くありません。たけしさんに銅像になってもらったり、真剣に紅白歌合戦に向けて衣裳の準備をしている小林幸子さんの頭をピコピコハンマーで叩くなど、見た人に「そこまでやるか!?」と思ってもらうところも ...