DESIGN/COPY/WEBクリエイティブの専門メディア

青山デザイン会議

クリエイティブは どう変わる? どう変わるべきか?

千原徹也(れもんらいふ)× 築地ROY良(BIRDMAN)× 柳沢 翔(THE DIRECTORS GUILD)

2016年もまもなく終わろうとしています。この1~2年、広告・デザイン界にはさまざまな問題や課題が噴出しました。その一方で、リオオリンピック・パラリンピックの引継ぎ式でのクリエイティブが世界中で話題になり、広告・デザイン賞とは違う形で、日本のクリエイティブ力を世界に示すことができました。メディアや手法も変化が見られました。ポスターが次々とサイネージへと変わり、VRの制作も増えています。AI(人工知能)やデータ、さらにはアドテクノロジーがコミュニケーションやクリエイティブに関与し始めるなど、その環境はどんどん変化を遂げつつあります。2020年の東京五輪がこれまで以上に視野に入る2017年は、クライアントの意識や志向も変わってくるのではないかと予想されます。そんな中、クリエイティブはどう変わっていくのか。つくり手はどう変わっていくべきなのか。今号では、いま広告・デザイン界で元気に活動する3名にお集まりいただきました。さまざまなデザイン領域を横断するれもんらいふ 千原徹也さん、ニューヨークにオフィスを設けたばかりのBIRDMAN 築地ROY良さん、2016年に演出した資生堂「High School Girl?メーク女子高生のヒミツ」が世界三大広告賞すべてで入賞を果たした柳沢翔さん。2016年を振り返りながら、いまの広告・デザイン界にある課題について考えました。

Photo:parade inc./amanagroup for BRAIN

働く環境をどう変えていくか

築地:BIRDMANを立ち上げて、2016年で12年目になります。実は最近、ニューヨークにBIRDMAN NYを立ち上げました。きっかけは、社員との飲みの席。「ニューヨークにオフィスつくろうか」と冗談で言ったら、手を挙げるスタッフが多かった(笑)。それなら、スタッフが3カ月位ずつ滞在して、あちらで刺激を受けて帰ってくる、そんな環境をつくれたら、東京のオフィスにもよいフィードバックがあるのではと思い、立ち上げました。その準備で先日グーグルやR/GAなど、米国のいろいろな会社を訪問してきたのですが、あらためて働く環境を見直すきっかけにもなりました。

千原:働く環境は、昨今のオーバーワークの問題につながる話ですね。

築地:僕はオーストラリアの出身で、あちらの広告会社でも働いていました。でも、オーストラリアでも、欧米でも過労で自殺するケースはほぼ聞いたことがありません。なぜなら、海外の企業で働く人はみな定時になると帰ることが当たり前だからです。そして海外のクリエイティブは明らかに日本より働いている時間は短いけれど、クオリティの高いものをつくっている。それがグローバルの広告・デザイン賞の受賞数にも顕著に出ています。

千原:日本の広告会社や制作会社は、クライアントから「明日までにやって」と言われると、すぐに引き受けてしまう習慣と文化をつくりあげてしまいました。オーバーワークの件があってから電通は22時退社を徹底していると聞きますが、業界全体がこうなってしまっている以上、すぐに解決できる問題ではないし、1社だけがそれを推進しても全体が変わらないと難しい。

築地:そうですね。欧米では広告会社だけではなく、クライアントも定時に帰る。つまり社会全体がそういうシステムになっているので、日本のような問題は起こりにくいのだと思います。

柳沢:先日、仲のいい監督から撮影直前に22時までに撮影を終わってほしいと相談を受けた話を聞きました。諸々調整してアングルチェックを撮影日に変更して解決したらしいのですが、事前準備に時間がかかる部署は大変だったと思います。現場スタッフはほとんどがフリーランス。作品の質が低いと次の仕事につながらない。どんな状況でもクオリティを下げるわけにはいかないので、強引に創作時間を短縮しようとすれば必ずどこかにしわ寄せがいく。制作方法を根本から見直さないと、解決には結びつかないような気がします。

築地:それを改善するためには、日本人も「明日までは無理です。○日までください」と交渉する習慣を身に付けるべきだし、いま社会全体に「NO」と言う勇気が求められていると思います。もう一つ言えるのは、クライアントも、作り手も共に何で勝負をするのか、何を重視するのか、そのプライオリティを変えていかなくてはいけない。広告の場合は特に仕事の早さが求められますが、本来はクオリティで勝負すべきです。試写のときに悪気はなく「それ消してもらえますか」とおっしゃる方が時々いますが、1コマ消す作業がどれくらい大変で時間がかかることなのか、その部分が理解されていないし、そこには対価が伴わないことも多い。欧米の場合、追加作業が発生したとき、細かくチャージされますが、今の日本のやり方だとそこが難しいですね。日本もクライアントに細かくチャージできるようにしていければ、クライアントに制作のプロセスについて理解を深めてもらうことにもつながるんじゃないかと思います。

千原:オリンピックロゴ問題が起こったとき、僕は制作側が「一般の人に寄り添う」という意識をもっと持つべきだと思いました。あのとき、「デザインは一般の人にはわからないでしょう?」という空気が充ちていたし、そこに対してデザイン業界は何もできなかった。あの件で僕はデザインに関わる人と関わらない人の間には深い溝があり、考え方のズレがあることを再認識しました。でも、そうやって距離を置くのではなく、お互いに寄り添って、みんなが喜ぶものをつくらないといけないんだろうなと。

柳沢:あの件で、僕はタクシーの運転手と大ゲンカしたことがあります(笑)。確かにそうですよね。僕は美大でリファレンスの文脈的意味やサンプリングの大切さを学んで、いつのまにかそれが常識になっていた。世の中の人はそうではないことをタクシーの人と話して実感しました。

千原:何かしらの影響を受けて、物事は発生するものですから、難しいですね。例えばファッションの世界でマーク・ジェイコブズが「今シーズンはこの素材で」と発表すれば、日本のブランドも当たり前のようにそのトレンドを取り入れて服をつくるけれど、それで批判されることはありません。それはおそらく服は誰もが着るもので、服の専門家だけでなく、一般の人と接点があるというのも大きいと思います。

築地:特にロゴなどはメディアを通して完成形だけを見ると、その形にするまでにどれだけのプロセスを経ているのか、そこを理解してもらうのが本当に難しい。デジタルでなんでも簡単につくることができると思われているから、「パッとつくってお金がもらえる」と勘違いされている面があるような気がします。それから、SNSで個人が発信したものをメディアが取り上げて、バッシングするという流れができています。そういう意味では、企業や制作側が『寄り添いすぎる』のも問題で、一般の人の反応に敏感になりすぎている。クレームが数件きたから、広告を自粛するのはどうかと思います。

柳沢:そこは企業の責任担当者次第というところもあるのではないでしょうか。僕が手がけたCMでもオーバーワークを少し思わせる表現がありました。電通の問題が浮上してきた時期だったので、もしかすると放送できないかなと思いましたが、クライアントは企画と意図を理解していたので落とさなかったし、クレームも来ていません。

千原:「25歳からは女の子じゃない」という資生堂のCMは自粛になりましたね。このCMは最後までちゃんと見れば、どういう意図であのセリフを言っているのかわかる。でも、一部分だけ取り上げて、あれはダメだと言うのはどうも納得がいかなくて。

築地:カップヌードルのCMでもありましたね。一般の人に寄り添うことは必要だと思いますが寄り添いすぎると、100%みんなが良いと感じるものをつくるしかなくなる。でも、それでは面白いものは絶対にできませんよね。こういう時代だからこそ、企業はどちらを選ぶのか、意志を明確に表明するべきでしょう。伝えたいメッセージがあるのであれば、簡単に取り下げるのではなく、「こういう意図があってつくった」と説明して、貫いてほしいと思います。

千原:意志がないと多数決で曖昧なものに決まり、結果として伝わらないメッセージになってしまうこともあります。そのことをよく感じるのが、タレントの撮影時。企画意図からすれば「無表情がベスト」でも、多くのクライアントは「笑顔もお願いします」とおっしゃいます。笑顔を押さえで撮ると、後々に「社内では笑顔のほうが…」となりがちです。担当者の意志ではなく、『社内さん』が出てきて、絶対に笑顔の写真になってしまうんです。そうなると納得できない仕上がりになってしまうことも多いので、そこは常に闘いです。

柳沢:企画を「マス向け」と「コア向け」に分けて考えているクライアントはとても仕事がしやすい印象です。何をやりたいか、誰に伝えたいか、明確な意志があるから混同しない。資生堂「High School Girl?」のコアターゲットは女子中高生。彼女たちにとって資生堂がより身近になることがテーマとしてありました。リーチする相手がすごく明確だったので、自由に楽しくつくることができました。

千原:最近、スタッフによく話すのは「今の世の中がこうだからこうする」ではなく、「自分がやりたいことだから突き詰める」ほうが大事ということ。僕の会社れもんらいふは、スープストックトーキョーのスマイルズのグループ会社です。以前に、創業者の遠山正道さんに「なぜスープ屋を始めたのか?」と聞いたことがあります。そのとき、遠山さんがおっしゃったのが「当時の世の中の流れは牛丼やそばだったけど、その事業をやって失敗したら言い訳をしてしまう。やりたいことをやって失敗したほうが清々しいし、そのほうが潰さないという突き詰めもできる」と。確かに、どこかに寄り添いすぎると、うまくいかなかったときに責任転嫁しちゃいますよね。世の中の流れに対して、どこまで自分が強い意志を持つことができるか …

あと62%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

青山デザイン会議 の記事一覧

クリエイティブは どう変わる? どう変わるべきか?(この記事です)
アイデアを具体化する思考と技術
なぜ僕らはこの商品をつくり続けるのか?
「伝わる」力は、どこから生まれる?
タブーに挑戦する「攻める」作り手たち
新しいカルチャーはどこから生まれるのか?