大阪芸術大学では9月に開催したオープンキャンパスで、直径16メートルの全天周実験ドームを一般に公開。日本に2個しかないレンズで撮影され、4K魚眼レンズ対応のプロジェクターを使って投影された全天周映像は、今後の映像制作における大きな可能性を秘めていた。
唯一のドーム施設で取り組む映像実験
国内でドーム施設を擁する大学は3校しかなく、その中でも大阪芸術大学の実験ドームは最大規模である。オープンキャンパス当日、来場者はその中に横たわって、天を見上げる形で二つの作品を鑑賞した。その一つが、大阪芸術大学で教鞭を執る書家・紫舟さんとチームラボとのコラボレーション作品「降りそそぐ言葉、舞いおりる花-夏」。100種類もの言葉の「書」が、天からゆっくりと降り注ぐ。その傍らでは花が蕾から咲き誇りながら舞い降りてくる。その幻想的な世界から一転、続いてスクリーンは美しい水の世界に。頭上をゆっくりと泳いでいくウミガメは、4Kカメラで撮影されている。この作品を撮影したのは、水中撮影の第一人者でもある同大学写真学科 赤木正和准教授だ。これらの作品はドームスクリーン全天周に、2台の魚眼レンズ付き4Kプロジェクターを使って投影。全天での360度映像の上映を実現した。
この企画は赤木准教授が和歌山大学観光学部 尾久土正己教授と共に、デジタルドームシアターの開発や映像研究に取り組んできたプロジェクトに端を発している。「大阪芸大の実験ドーム自体は30年以上前に音響実験中心に作られたもので、ドームでありながら音響効果が優れています。近年、さまざまな映像機器が開発されたことが奏功し、ドームを使う映像実験の新たな可能性が見えてきました」(赤木准教授)。同施設の大きな特徴は、4Kプロジェクター(JVCケンウッド製)2台の対角ブレンド投映ができる点。そして、撮影には普通の全周魚眼レンズではなく、和歌山大学が製作した、通常の視野角を超える日本にはまだ2個しかない全円周専用設計レンズが使われている。ブレンド機能を計算された2基のプロジェクターから4K対応魚眼レンズを使って投影される映像はシームレスにつながり、全天周での自然な映像視聴を可能にしている。
来年から両大学の研究拠点はこの実験ドームとなり、両者でさらなる研究・開発に取り組む。例えば2020年の東京五輪の開催時。その観客席に360度カメラを設置し、ライブ映像を配信。全国に300あるプラネタリウムでパブリックビューイングを実施する、といった研究がまさに進められている。現在、8Kに対応した撮影レンズの開発も進んでおり、年内にテストを開始する。
こうした可能性を見据え、紫舟さんは現在、本作品の「書」をすべて奥行のある文字で書き直し、立体に見えるよう、さらに手を加えている。「来年の公開時には、より没入感のある作品へと進化していると思います」(紫舟さん)。
同大学を拠点にドーム映像の研究が進めば、今後VR映像の表現、プラネタリウムの新たなコンテンツ開発、さらには新しいコンテンツクリエイターの創出など、映像のさまざまな可能性が広がっていく。この取り組みに同大学の学生や研究者のみならず、学外からも大きな期待が寄せられている。
編集協力/大阪芸術大学