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世界の観客が沸いた! リオ大会 旗引き継ぎ式の舞台裏(前篇)

リオ大会 東京プレゼンテーション 

「安倍マリオ」の登場など、予想外の演出の連続で観客を沸かせたリオ大会旗引き継ぎ式の東京プレゼンテーション。日本を代表するトップクリエイターたちが一丸となってつくりあげたセレモニーの舞台裏を公開する。

Tokyo 2020/Shugo TAKEMI

左から、浜辺明弘さん、太田恵美さん、 児玉裕一さん、安江沙希子さん、佐々木宏さん、菅野薫さん、MIKIKOさん、藍耕平さん、真鍋大度さん。

Photo : parade inc./amanagroup for BRAIN

未知のメンバーで挑んだ未知のプロジェクト

リオ五輪の閉会式で行われた、次回大会開催都市への五輪旗の「引き継ぎ式」。シンガタのクリエイティブディレクター 佐々木宏さんに最初に声がかかったのは2015年秋のことだった。「五輪のセレモニーで広告の人間に声がかかるという話は聞いたことがない。だから最初は驚きました。でも、組織委員会から『このセレモニーは2020年の東京大会の予告編なんです』と言われて。予告編=広告ということでお声掛けいただいたのだと理解できました。予告編なら、普段はCMをつくっている自分にも何かできるかもしれないと」。

その後、東京五輪に合わせて「東京万博」の開催を都に企画・提案していた縁でアーティストの椎名林檎さん、国立競技場のファイナルセレモニーの企画演出や、東京2020の招致プレゼンでの太田雄貴フェンシング映像などを手がけた菅野薫さん、Perfumeなどの演出振付家であるMIKIKOさんにも声がかかり、セレモニー演出のコアメンバー4人が決定した。

「菅野くんからの助言もあり、ライゾマティクスリサーチの真鍋大度さんらも加わり、フィールド上の演出の部分を担う大枠のメンバーは集まりました。ただ、顔合わせで椎名さんやMIKIKOさんも含めてお会いした時に、これはちょっとカッコいい系が集まりすぎたなとベタ好きの私は感じて(笑)。30代中心で1人だけ61歳というのもバランスが悪いですし。それでチームの“母親役”として、『そうだ 京都、行こう。』で知られるコピーライターの太田恵美さんに入ってもらうことにしました。電話で『太田さん、いかがお過ごしですか?京都じゃなく、今回は日本のためにひと肌脱ぎませんか?』とお話しして。それから、今の自分の広告の仕事を9割方やってくれているアートディレクター界のドラえもんこと浜辺明弘さんも引きずり込み(笑)、さらに映像監督が相当重要だろうということで、サントリーの『歌のリレー』などでお世話になった、才能と人柄の両立する児玉裕一監督に声をかけました」。こうして、広告、映像、舞台、音楽、テクノロジー…普段はそれぞれの場所で最前線を走るメンバーが集まった。「ちょっと怖いけれど、色々なことが起きそうな組み合わせ」と佐々木さんは感じたという。

世界に向けたセレモニーゆえ、ノンバーバルな表現が中心。必要になっても英語だ。太田さんは「私は日本語で考えて書くコピーライターです。自分の役割はあるのか不安もありました。でも、最終的には自分の居場所は自分でつくるしかないと吹っ切って臨みました」と正直な思いを口にする。一方で、佐々木さんは「言葉こそが重要」と考えていた。「映像を見た世界中の人が『あの8分は○○だった』と言えるような言葉、メッセージが必要だと思っていました。何としても言葉を残したかったので、頑張ってほしいと伝えました」。チーム全体の合意形成を図る上でも言葉は重要で、オリンピックで使われた『LOVE SPORT』やパラリンピックの『POSITIVE SWITCH』は、チーム内で企画を整理し、定着させる言葉としても機能した。

コンセプト策定までが難産 TOKYOをどう表現するのか?

佐々木さんは2年以上前から誰に頼まれたわけでもなく、東京2020大会や渋谷をイメージした“Vコン(ビデオコンテ)的なもの”を自主制作し、さまざまな人に見せていたという。「1964年の東京五輪を黒澤明監督が演出する予定だったという話があって、そのアイデアを読んだんです。世界中で同時にベートーベンの『喜びの歌』を流す、最後に『ノー・モア・ヒロシマ』と言って終わるなど、平和の祭典についてのアイデアで。当時にこのアイデアは素晴らしいと感じ入って、僕も自分なりのアイデアをVコンにして酒の席などで人に話しては鬱陶しがられていたんですよね(笑)。スポーツは戦争をなくすためにつくられたものなのだから、『ケンカをやめて、ケンカはスポーツで』と。このチームにも、最初に見てもらいました。皆さんややキョトンとしていて、児玉さんだけがすごくいいと言ってくれたんですが(笑)」。それが議論の入口とたたき台の役割を果たすことになった。リレーなど一部のアイデアは、Vコンから本番の演出に生かされている。

児玉さんはこのVコンを見たときの印象を「楽しそうだと思いました」と話す。「セレモニーが楽しいことって大事だなと。このVコンのイメージはずっと残っていて、チームのメンバーからして全体的にクールでソリッドな仕上がりになりそうだったので、僕は隙あらばユーモアを足していこう、と考えるようになりました」。その決意(?)が形になったのが「RIO」×「ARIGATO」「OBRIGADO(ブラジル公用語のポルトガル語で『ありがとう』)」の言葉遊びだ。これらの言葉にRIOが含まれていると児玉さんが最初に気づいた。こうしたダジャレが世界の人に伝わるか未知数だったが、表示された瞬間、会場は歓声に沸いた。

「このチームは、とにかく全員がよくしゃべり、次の打ち合わせまでに『前回こういうことになりましたよね』と整理して持っていって…というのを延々繰り返していた気がします。アイデアを整理して機能をはっきりさせるためにたくさんコピーや文章を書いて。参考になるような絵を描いたり。でも、絵だと印象の誘導が強すぎるからとあえて言葉で表現してみたり。紆余曲折しながら、全員の思考を整理統合して進んできました」(菅野さん)。こうして組織委員会からのオリエンをもとに大まかな方針は次のように集約された。
(1)「次世代」:4年後、またはそれ以降に活躍する次世代が主役という雰囲気を感じ取れるものにする。
(2)「感謝」:東北が被災した際にサポートしてくれて『ありがとう』の気持ちを世界に伝える。
(3)「アスリート」:アスリートを中心に据える、の3つだ。

だが、一番の難題は肝心の「東京をどう表現するか」だったという。「そもそも表現するのは、東京なのか日本なのかという議論にもなりましたし、切り口によって『東京』の感じ方があまりに違う。東京生まれが思う東京、地方から来た人が思う東京、世代によっても感じ方が違うし、海外から見た東京もまた全然違うことに気づいて、改めてその幅広さが東京なのだと知ると同時に、なかなか絞りこめずにいました」とMIKIKOさんは振り返る。

ここで出口を見つけるきっかけとなったのは、当時の舛添要一都知事からの「江戸時代からの“ 水の都”のイメージを盛り込んでほしい」という要望だったという。ヒントを求め、チームは全員で江戸東京博物館へ行き、名誉館長で歴史学者の竹内誠さんから江戸の歴史を聞いた。「スポーツの大会なのに江戸?と最初こそ思いましたが、結果的にここで聞いたお話に大きな影響を受けました。隅田川は東京を流れるメインの川で、スカイツリーも東京タワーも臨める。屋形船のコースにもなっている上野・浅草から六本木・お台場への流れはそのまま東京の歴史に重なっています。昔から水辺はお祭りの舞台で、浅草などの町人文化が栄えた水辺の町では毎日のようにお祭りがあったと聞きました。それが脈々と受け継がれているのが東京のユニークなところ。東京は最先端なイメージもあるけれど、最新ロボットの背景には江戸のからくり人形があるし、アニメやマンガの背景には浮世絵などがある。その歴史を含んだ全体が今のリアルな東京で、それを表現できればいいのだと気づかされたんです」(佐々木さん)。MIKIKOさんと浜辺さんによるフィナーレの影絵(富士山と東京の決まり絵)もまた、歴史・伝統と先端・リアルのハイブリッドを象徴している。

MIKIKOさんも「伝統と現代性は二律背反ではない」と話す。「外国の方がPerfumeに惹かれるのも、彼女たちの一糸乱れぬダンスの規律性と調和に“目に見えない”日本らしさを感じるようなんです。今回は歌舞伎の早替えを入れたり、現代的な表現に伝統の技を掛け合わせる手法を用いたいと考えました」。現代的な表現の中ににじみ出る日本らしさがあると考え、歴史が織り交ざった演出が自然と導かれた。

    オリンピック メディアガイド

    リオ現地でメディア向けに配布されたガイド。主に太田さんと浜辺さんを中心に制作され、セレモニーのコンセプトやタイムライン、それぞれのシーンの解説が細かく書き込まれている。世界でオリンピック・パラリンピックを放送で見る十何億人に正しい情報を届けるために重要な役割を担う。「それまでのメディアガイドに比べて文字量が多すぎると言われましたが、熱い思いはある程度の量がないと圧にならないと思って突き進みました」(太田さん)、「引き継ぎ式の映像は解説を含めて完成する意識でいたので、特に日本への中継を担当されたNHKの方々にはぜひここでこの解説をしてほしいと、事前にきちんとお伝えしました」(菅野さん)。

    メディアガイドの冒頭に入っている、スカイツリーを棒高跳びで飛び越えるアスリートのビジュアルと「LOVE SPORT TOKYO2020」の文字。アートディレクターの浜辺さんが初期段階に作ったこのイメージが、後々映像へと展開した。

世界を驚かせた「安倍マリオ」が生まれるまで

そして、今回の演出の中でも特に話題となった「安倍マリオ」の演出はどのように考案されたのか?そもそもの発端は ...

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