IDEA AND CREATIVITY
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青山デザイン会議

アイデアを具体化する思考と技術

新居幸治×狩野佑真×木村匡孝

面白いアイデアを思いついた!こんなことできるんじゃないか?……私たちは仕事の中で、毎日の生活の中で、ときには思いもよらぬことを発想したり、思いつき、ワクワクしたり、気持ちが高まったりします。しかし、それを実際に形にするとなると、話は別。商品や作品、あるいはプロジェクトとして世に出すには、やりとげるための意志の強さや突破力も求められるなど、なかなか一筋縄にはいかないという人がほとんどではないかと思います。逆に、さまざまなアイデアの中から何を形にするのが最適なのか、そこでの議論もあるのではないでしょうか。それはものづくりに関わる人であれば、誰もが一度はぶつかる壁です。そこで、今回の青山デザイン会議は「アイデアをいかに形に定着させるか」がテーマです。「食べられる」をテーマにクリエーションを続ける「Eatable of Many Orders」新居幸治さん、電気と機械にまつわるさまざまな業務を手がけるTASKO 木村匡孝さん、スマイルネジなどユニークなプロダクトを企画、デザインする狩野佑真さんに、ご自身の活動を通してお話をいただきました。

発想の前に、どこに着目しているのか

新居:僕はもともと建築を勉強していたのですが、あるとき「空間と服を着るモーションの繋がり」という四次元的な発想が生まれ、洋服を学びたいと思うようになりました。大学卒業後、アントワープ王立美術アカデミーに留学し、2007年に「Eatable(エタブル)=食べられる」をコンセプトにした鞄と靴のブランド「Eatable of Many Orders」を立ち上げました。「Eatable」は、天然素材の使用、染織や革の鞣しなどの製法への執着を表現する言葉として使っています。

狩野:作品を拝見すると、新居さんがつくるものはファッションの範疇を完全に超えていますよね。

新居:ヴァンジ彫刻庭園美術館で現在開催している展覧会「生きとし生けるもの」には、羊のウールと、ウールから取れるラノリンという油を使った作品を展示しています。コンセプトは、「衣食住に欠かせない羊について、食を通して考える」。最近、自分の中のキーワードの一つが「油」なんです。例えばコットンは生地にもなるし、コットンシードオイルという油も取ることができる。ひとつの植物や動物から「衣」と「食」の両面を追求していったら、油にたどりつきました。

狩野:新居さんの中に常に「食べられる」というテーマがあるからこそ思いつく作品ですね。僕は2012年に大阪のネジ専門製造会社「粉室製作所」と共同で「スマイルネジ」のプロジェクトを開始し、2年かけて2014年に試作が完成し、2016年にようやく販売に至りました。

新居:普段、なかなか目がいかないネジに、なぜ着目したんですか?

狩野:これは偶然です。僕は大学卒業後、アーティスト 鈴木康広さんのアシスタントを経て、2012年に独立しました。独立した当初、仕事が全くなくて、「何かデザインしないと、このままではまずい」と思い、目に入ったものをどんどん描き始めたんです。コップやテレビ、リモコン…など、自分の身の回りにあるものを。そのとき窓のサッシのネジを見て、「ネジ穴を星やハートやスマイルにする」というアイデアが生まれました。いろいろなものを描いていく中で、最も可能性を感じたのがスマイルでした。でも、アイデアのレベルは決して高くないし、既に誰かが作っているだろうと思って調べてみたところ、意外にも誰も作っていなかったんです。これは自分が早く世に出さなければ、誰かに先を越されてしまうと思って、量産や販売のことは一切考えずに、試作をスタートさせました。

経験から得られる技術

狩野:ネジをつくるだけではなく、もう少しデザインの枠を広げたいと思い、「Screw:) Project」という購入者参加型のアートプロジェクトも立ち上げました。スマイルネジを買った人がネジを取り付けた様子を写真に撮り、サイトに投稿すると、写真と位置情報がアップされます。今はまだ56本と少ないですが、遠くはアフリカなど世界中に仕掛けられています。僕はどちらかと言えばネジのように多くのデザイナーがデザインしないところや、メインストリームではないところのアイデアを考えるのが好きなのかもしれません。

木村:僕は新しいことを追求するより、自分が経験したことがないことをやってみることからアイデアが生まれることが多いかもしれません。基本的に技術全般が好きで、学生時代から「歩く機械」をセルフプロジェクトでつくり続けてきました。いまはTASKOという会社を作って、舞台装置から広告の装置、店舗のインスタレーションまでさまざまなものを作っています。仕事の中でも、技術は自分にとって大きなキーワードです。

経験したことがない技術は世の中にまだまだあって、最近やってみて面白かったのは握り寿司。見よう見まねでいざやってみたものの、全然うまくいかないんです。シャリのサイズや握り方、刺身の切り方、綺麗に切るための包丁の研ぎ方など、握り寿司にはさまざまな技術が凝縮されていると思います。そして次はもっとうまく握れるようになりたいから研究します。この経験から今すぐに何かが生まれるわけではありませんが長い歴史のなかで洗練された技術からは何かしら得るものがあるので気になる技術があれば、1度自分で経験すると、その後に必ず生きると思います。

新居:その話で共感する部分は「アイデアは頭で考えるもの」と思われがちだけど、実は手が大事ということです。頭から手にバトンタッチ、またはビルトアップしていく感覚は、ものづくりで欠かせないものですよね。

木村:自分でつくってみたり、経験することで、モノの価値に改めて気づくこともあります。以前、うちの子どもにスイスのネフ社の積木をプレゼントしようと思ったのですが、買うとかなり高い。どうせなら同じものを作ってみようと自分で製作してみたのですが、いい木材は金属よりも加工が大変だったり安全性の高い塗料は高いし..ネフの価格に納得がいきました…。

狩野:スマイルネジを思いついたとき、簡単につくれるだろうと思い、ネジ会社に問い合わせてみたんです。当時はネジ会社との繋がりなどなく、大手には断られると思ったので、中小企業を中心にメールでスケッチを送りました。その結果、2社から返事があり、1社は技術的に無理で、もう1社が「もしかしたらできるかもしれません」と。そこから試作に向けての試行錯誤が始まりました。でも、試作品とユーザーが使える市販レベルのものをつくるのでは全く違うことを思い知りました。素材を選定するのも難しく、硬い金属だとドリルの歯が折れちゃうし、柔らかいとネジ山に皺が寄ってしまうなど、いろいろあって…。

木村:製品とプロトタイプでは工程が全く違いますよね。TASKOは基本的に一点物をつくっていて、製品化はほとんど経験がありません。プロダクトの試作まではよくやりますが、「一緒に製品化しよう」と言われたらうーんとなってしまって…。製品化となると安全性やコスト、流通などを細かく考えなければいけないので、自分はそっちの分野にはあまり明るくないというか、一点物と製品では使う『脳』が確実に違います。

狩野:そうですね。スマイルネジは当初、試作までと決めていたので、ここまで進みましたが、その違いを最初に知っていたら、絶対にやってなかったと思います。特にネジのような工業製品は1人では絶対につくることができないので、ネジ会社さんとの共同プロジェクトにして、お互いにメリットが出るようにアピールしていくことにしました。

新居:僕らは規模が小さいから、革物の商品などは基本的に全部自分たちの手でつくっています。僕らのブランドの象徴的な商品でもあるハンガーバックには木の取っ手が付いているのですが、それは木を切るところから全部自分でやっています

狩野:僕だったら木を切るところから木工職人にお願いしようと考えてしまいますが、それをせずにご自身でやる理由はどういうところにあるんですか。

新居:僕らは大量に商品をつくるわけでもないし、かといって職人の方に無理なお願いをするのもどうかなと思うところがあって。それから、最近自分たちの商品を中国で真似されて…。写真では似ているように見えるのですが、実物を見ると作りや質が全然違うんです。今は3Dプリンタがあるので、どんな形でもコンピュータで再現できますが、改めて自分たちの手でつくることに意味があると思っています。そこを追求していかないとダメなんじゃないかと。あと、自分たちの商品には最終的な『完成』がないというのも大きいですね。「これが最終形だから同じものを1000個つくってください」と外部に依頼できず、毎回マイナーチェンジを繰り返して、形と機能を追求し続けています。

狩野:定番の商品にしても、時間をかけて、変化していくということですね。

新居:最近思うのは、いま当たり前のようにある商品だって、決して簡単にできあがったわけではないということ。例えばエルメスのケリーバッグだって、いきなり最高傑作がポーンとできたのではなく、ブランドの歴史の蓄積の結果で、あの形が完成するまでは長い道のりだったと思います。そう考えると自分たちも地道に続けていくしかないのかなと思います。

狩野:プロダクトをやっていると、開発・制作にかかった時間をどう価格に盛り込むかという問題も難しいですよね。昔はこんなに高価な家具を買う人がいるのかと思っていましたが、自分がプロダクトに関わるようになって、その理由がわかりました。

アイデアを実現するために不可欠なリサーチ

狩野:僕がお2人と違うのは何の技術も持っていないという点です。木工はDIYレベルだし、プログラミングや溶接は全くできません。だから、アイデアは思いついてもパートナーになってくれる人や企業がいないと何も完成しないんです。他の人に自分のアイデアのために動いてもらうためには、なぜこれをつくるのかという思いやつくる意味をきちんと伝える必要がある。毎回そこにもどかしさを感じます。思いついたものをどういう人に頼むか、という点もいつも苦労しています。

新居:留学中に学んだことで一番身についたのは、「リサーチ」です。おそらく僕はアントワープ王立美芸術アカデミー出身の中で、一番リサーチしている人間だと思っています(笑)。リサーチがなぜ大事なのかと言えば、それによって、まず自分の中にブレがなくなる。そして、自分のディレクションの方向がきちんと見えて、「これで行きます」とはっきりと言えるようになる。そして、リサーチしているものを日々の生活の中で見ると、自然に頭の中に入ってきて蓄積されていきます。

学校では2年次にコスチュームを学ぶのですが、日本人は総じてそれが苦手です。というのも、洋服はやはりヨーロッパのもので、ヨーロッパ出身の同級生たちはおばあちゃんのワードローブを開ければ、ヒストリカルなコスチュームが当たり前のようにある。でも日本の場合、それが着物ですから。その現実と向き合い、差を縮めていくためには、徹底的に調べるしかありませんでした。だから、ものづくりをする上ではアイデアとは別にリサーチが必要だと考えています。最近はパクリの問題もよく出ますが、それもリサーチの積み重ねがあれば防ぐことができるのではと思っています。

    KOJI ARAI'S WORKS

    静岡県・ヴァンジ彫刻庭園美術館の展覧会「生きとし生けるもの」に出品している作品とウールセーターとラノリンを合わせた作品。私たちの衣食住に欠かせない『羊』を追求した結果生まれた。展覧会は …

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