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楓セビルのアメリカンクリエイティビティ NOW!

人間らしさを取り戻すデジタル・デトックスのキャンプ

楓セビル

CAMP GROUNDEDの様子。デジタル機器は一切持たず、自分の名前や肩書きも忘れて過ごす。

デジタル・ジャンキー(デジタル中毒)と呼ばれる人たちが増えている。一日中、デジタル機器のスクリーンを覗き込んで暮らしている人のことをいう。デジタル機器に取り巻かれて暮らすことが、現代人であることの証のように思っている人も多いのだ。だが、その一方、デジタル機器に浸った生活に疑問を持つ人も次第に増えている。

サンフランシスコでデジタル・デトックス社を立ち上げたリビ・フェリックスとブルック・ディーン。

“バーンアウト”(燃え尽きた)青年が立ち上げたキャンプ

2009年、ITのスタートアップ企業の取締役として寝食を忘れて仕事をしていたリビ・フェリックスは、過労のために生死を危ぶまれる大病に倒れた。一方、友人のブルック・ディーンも仕事に疲れ、環境衛生学の勉強を続けるために、大学院に戻る準備をしていた。病気が治った時、リビは「これまでの生活とは全く違う世界に旅行しないか?」とブルックを誘い、2人は東南アジアへの旅に出発した。

2人はタイ、ベトナム、カンボジア、インドなどを遍歴し、その間にヨガ、メディテーションなどを勉強。「時間を知るには時計やスマホの必要はない。人間が太古の昔からやってきた自然の方法、月や太陽を見ればわかる」とリビは悟った。テクノロジーとはほど遠い世界で、2人は人間の本来の姿を見つけたのだ。

2年半の遍歴をへて、2人は帰国。帰ってきた米国は、デジタル時代に突入していた。「旅に出た時は、iPadが新発売されたばかりだった。2年半の間にスマホ、タブロイド、Apple Watchなど、さまざまな新しいデジタル機器が消費者の生活の隅々まで浸透していた。そして、人々はそれに振り回されていた。これはなんとかしなければという思いに駆られた」とリビ。帰国から3カ月半後、2人はサンフランシスコに「Digital Detox(デジタル解毒)」なる会社を設立。そして、最初の“CAMPGROUNDED(キャンプ・グランデッド)”を開催した。「参加者10人ほどの小さいキャンプだった」が、参加枠はたちまち埋まり、参加できなかった人から「次のキャンプはいつ?」という問い合わせが殺到。リビは、米国人の間に、人間性リバイバルのニーズが大きいことを知った。

年齢、職業、肩書を超えたキャンプで得られるもの

キャンプ・グランデッド(以下 CG)は、生活のほとんどの時間をデジタル機器と一緒に過ごしている、“デジタル・ジャンキー”が、デジタル機器によって支配されている生活から離れ、もう一度、人間らしい生活に戻るためのステップとして、同じような問題を抱える人たちと数日を楽しむ“ 大人のためのサマーキャンプ”である。屋外の生活を楽しめる米国各地のキャンブ場や公園などで実施する。10人で始まったCGは、いまでは米国30州、8カ国から200人、300人のキャンパーを集めるイベントとなっている。「19~75才まで、エンジニア、フリーランサー、プログラマー、スタートアップ起業家、大学教授、広告会社のクリエイティブ、企業経営者から幼稚園の先生まで、さまざまな職業の人たちがやってくる。日本からも4人の参加者があったよ」とリビ。CGが行った調査で、「1日に10時間から16時間、スクリーンを睨んで暮らしている人たち」が世界中に無数にいることがわかった。「ソーシャルメディアやTwitter以外の、生身のリレーションを見つけるために、彼らはここにやってくるのだ」とリビ。

CGの規則はシンプルだ。まず、キャンプサイトに到着した人は、入り口でスマホ、タブレット、コンピュータ、時計、ウェアラブルデバイスなど、デジタル機器に属するものは全て取り上げられる。「紙袋に入れて、キャンプが終わるまで、倉庫の中にしまわれる」のだ。また、“物”だけではく、形而上的な付属品―名前、職業、肩書、年齢など―も忘れることを要求される。「仕事の話はご法度。何もない、生まれたままの人間になること」とリビ。キャンパーは便宜上、自分の好きなニックネームで自己紹介する。“ハニー・ベア”、 “ポップコーン”、“エンブレース”、“ジェスト”、“トップレス”など。ちなみにCGでカウンセラー(相談役)として活躍しているリビは、“フィジェット・ウィグルワース”という名前で紹介される。

キャンパーの日課は、メディテーション、ヨガ、散策、読書、昔懐かしいマニュアル・タイプライターでのライティング、キャンプファイヤーを囲んでのディスカッション、カラオケ、タレント・コンテスト、弓術など、50余のアクティビティに加えて、キャンパーたちが考え出した独特のゲームもある。“ カラー戦争” というゲームでは …

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