福部明浩×永井聡「企画をジャンプさせる演出家の発想法とは?」
MATCHやカロリーメイトなどで数々のヒットCMを連発しているプランナー福部明浩さんとディレクター永井聡さんの2人。福部さんがほれ込む、永井さん独特のアイデアをジャンプさせる方法論とは?2人の対話から迫る。
拡散する時代 人を動かす表現はテレビCMに学べ
「日清紡~♪ 名前は知ってるけど~♪日清紡~♪ 何をやってるかは知らない~♪」の歌でお馴染みの日清紡のCM。毎回登場する「犬の二人羽織」に、近年では女優の深田恭子や歌手のきゃりーぱみゅぱみゅも加わり、CMは年々パワーアップの様相を見せている。
日清紡のCMシリーズ「ドッグシアター」が始まったのは2012年。1906年創業の関西の老舗企業である同社は、紡績会社としてスタートし、現在ではエレクトロニクス、ブレーキ、精密機器、化学品、繊維、紙製品、不動産まで幅広く事業を展開するBtoB企業である。
2012年からの広告展開は、リクルーティングを意識して、特に若い世代に認知を高めたいという目的でスタートした。また、時代による事業内容の変化に合わせてイメージを変えていきたい考えもあった。
CMで伝えたいテーマは「環境エネルギー企業」。2011年以降エネルギー問題が注目を集める中で、再生エネルギーを扱う企業であることを打ち出していきたいと考えていた。CMのタグラインが「いま、必要な会社。」となっているのはそのためだ。
しかし、環境エネルギー事業を訴えたい企業が、なぜあのような“犬のCM”を放映しているのだろうか? 2012年より同社の広告をクリエイティブディレクターとして担当しているワトソン・クリックの中治信博さんと電通関西支社 CMプランナーの古川雅之さんに聞くと、「当時ネット動画で、犬の二人羽織(本物の犬の下に人が入り込んで、犬の頭と人の腕を外に出して、手でさまざまな演技して遊ぶ)を見つけて気になっていたんです。それにセリフを当ててしゃべらせたらいいのではないか?と思って」という答えが返ってきた。内容的なつながりはないが、気になっていた画と組み合わせてキャッチーにするアイデアだった。
歌の案は犬とは別案で提案していたが、3本制作した第1弾の犬のCMのうち、1本にその歌を採用したところ、人気のコマソン(コマーシャルソング)となり、以降「歌もの」として続けることになった。
それでは「名前は知ってるけど~♪ 何をやってるかは知らない~♪」の歌詞は?「日清紡って、車のブレーキから海上無線、電池まで本当にいろいろやってる会社なんです。いくら聞いても僕らには説明しにくいのですが、この会社を受けるような学生さんはちょっと調べればわかってくれる。だから日清紡に興味を持って、調べてもらうことができればまずは成功です。もう一つ言えば、学生さんの親世代に社名を知ってもらうことも、就職の後押しとして重要と言えます」(中治さん)。このCMの放映開始以来、認知度、好感度、採用志望者数のいずれも大幅な伸びを見せ、しっかりと結果に結びついている。
ドッグシアターシリーズは、2015年は深田恭子が、そして今年はきゃりーぱみゅぱみゅが出演する形で進化を続けている。「3年継続して、もっと企業としてメジャー感を出したいと要望があり、タレントの起用に踏み切ることになりました。難しかったのは、この犬たちの世界の中にタレントをどう入れるか。犬の二人羽織は手を使って面白いネタにする、犬の前にテーブルが必要、上半身しか映せないなどの制限があるので、それがクリアできるシチュエーションを毎回考えています」(中治さん)。
今年きゃりーぱみゅぱみゅを起用したのは、歌をさらにメインに打ち出すため。「きゃりーさんの『うたう』篇に関しては、演出の真田敦さんのアイデアが大きいです。『環境』のテーマに合わせて大きな地球儀を作ってくれたり、色々な提案をしてくれます。このCMは流れ始めた時に、一瞬きゃりーの新しいPVかな?と思わせるような作りで、関心をひくようにしています」(古川さん)。
5年目に突入した「ドッグシアター」シリーズだが、古川さんは「2 年、3 年続けたくらいでやっと小学生が歌いはじめるイメージ」という。世間よりも、クライアントや制作者が案外飽きやすいものだが、“3年でやっと定着”が実感値。4年目からタレント起用の新展開に入ったのは、その資産を生かしつつ、新鮮さを出すためだ。
中治さんは「CMは伝えたいことの10%くらいしか伝わらないと考えた方がいい」という。だから …