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拡散する時代 人を動かす表現はテレビCMに学べ

好感度1位を独走する「何でも言える便利なフレーム」

東急リバブル 企業CM

「そうなの!?」「知ってる!」のフレーズが耳に残る東急リバブルの親子シリーズCM。現在3年目に突入し、知名度と好感度を業界トップに押し上げた。企画者の松尾卓哉さんが語る、どの商品にも共通するCM制作のセオリーとは。



東急リバブル「娘」篇

親子の立場を反転させるエンターテインメント

お笑い芸人の山口智充(ぐっさん)演じる父親が子どもたちにトリビア(雑学知識)を披露する東急リバブルのCMシリーズは今年3年目に突入した。クスッと笑える親子の会話は、東急リバブルの好感度を圧倒的な業界1位(CM INDEX調べ)へと導いた。

17(ジュウナナ)の松尾卓哉さんがこのCMを企画した当時、東急リバブルは業界3位の大手でありながら、関東エリア以外の地域では、全国展開する不動産会社であることさえ知られていなかった。松尾さん自身も社名こそ知ってはいたが、業界3位と聞いて驚いた。「こうした情報をトリビアとして届ければ、CMを見る人にも覚えてもらえると思った」と言う。

正面切って企業が「こんな会社です」と伝えても人は聞いてくれない。だから、「直接視聴者に言わずに、第三者に向かって話しているのを聞かせる」「最初は不動産とは関係のない面白いトリビアで関心を惹き、その勢いで東急リバブルの情報を話す」というCMフレームを考えた。登場人物は、不動産のコアターゲットを考えると自然に「親子」になった。

「親が子どもより優れているのは知識量。雑学を教えた子どもに感心されると、親はちょっといい気持ちになる。『そうなの!?』というフレーズを重ねて親を煽ったところで、東急リバブルの企業情報を言うと、子どもに『知ってる』と冷たく返される。しかも、子どもの方が詳しい。その強引な逆転劇で見ている人にクスッと笑ってもらおうと考えました」。

ネタを入れ替えれば何でも言える便利なフレームで、1年目は長男、2年目は次男、3年目は妹が登場。最新CMの撮影現場を見かけた人が「東急リバブルのロケじゃない?」とツイートしたのを見て、「山口さん親子、という断片情報だけで企業名につながっている」と世間に浸透している手ごたえを感じたという。東急リバブルによる調査でも、首都圏と関西で不動産ブランド名純粋想起1位という結果が出ている。

3年目の展開についての企画書より

「娘」篇企画コンテ

企業が持っているトンマナに意外性をかけあわせる

松尾さんは、自身が手がけるCMについて、「どの企画制作についても共通した考え方がある」と言う。それは商品のある暮らしをエンターテインメント化すること。商品と関係ないことをエンターテインメントにしても、商品の購買には結びつかない。例えば、松尾さんが同じく手がけているピザーラのCMでも常に「ピザの美味しさ」が企画の真ん中に置かれている。

エンタメ化するポイントを正しく探すには、自分が商品に対して正直になることだと松尾さんは話す。「オリエンを聞いたときに、まず反応する自分の感覚を大事にしています。自分と同じように感じる人は世の中にたくさんいるはず。そこを軸足にした時、スポンサーに対して本当の話ができると思うし、結果的に喜ばれます。CMの企画者に求められているのは“太鼓持ち”的な姿勢ではありません。喩えるならば、権力者が世間からどんな風に思われているか、面白おかしく伝えて気づきを与える“道化師”的な姿勢も大事にすべきだと思っています」。

もう一つ、松尾さんがCM企画をする際に重視するのが、「企業や商品が持つトンマナに少なくとも片足を入れておくこと」だ。人は企業や商品のトンマナをグルーピング(属性化)して認識している。その属性から少しだけはみ出した時に、意外性とインパクトが生まれ、印象に残る。属性から大きく外れたものには、大勢の人は振り向いてくれない。

人は笑っているときに心が開くだからユーモアが大事

松尾さんの制作するCMには、必ずと言っていいほど「笑い」のエッセンスが入っている。「人は、笑っている時は心が開き、相手を許しているのでメッセージが届きやすい。そのため、ユーモアを大事にしている」と松尾さんは言う。15秒や30秒で人に涙を流させることは難しいが、笑わせることはできる。

視聴者が自発的に見に来るネット動画と違い、テレビCMには興味がない人を振り向かせる技術が必要になる。さらに、視聴者がいつCMと出会うかわからないため、出会い頭での勝負になる。「『CMは何度も目にするものだから』と言う人もいますが、私は1回で刺さることをいつも意識しています。情報量が多い時代、その強さがないと人は動かない」。

CMが本気で何かを伝えようとすれば、見ている人はそれを感じとる。“本気のメッセージ”か“いろんな事情の詰め込み産物”か、人は一瞬で嗅ぎ分ける。「最近はテレビCMをネット動画と同じコストで作ろうとする動きもありますが、時間とお金をかけて1度見たら忘れられない質の高いCMを制作した方が、今の時代、オンエア量を増やすよりも効率的だということを、スポンサーの方には気づいてもらいたいですね」。「個人も企業も、人の目を気にし過ぎるとロクなことにはならない」と松尾さんは言う。「自己規制をし過ぎて、目立たないものを作ることが一番、経済効率が悪いのではないでしょうか?」。

松尾卓哉(まつお・たくや)
17(ジュウナナ) クリエイティブディレクター/CMプランナー。電通、オグルヴィ&メイザー・アジアパシフィックを経て、17を設立。最近の仕事に、ピザーラ、キリンチューハイ ビターズ、KOSE ジュレーム、大塚製薬 ネイチャーメイドなどがある。

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