トヨタでレクサスブランドを立ち上げ、成功へと導いた長屋明浩さん。2014年にトヨタ自動車からヤマハ発動機デザイン本部へ移籍し、異なるフィールドでゼロからのブランドづくりに取り組んでいる。「これからはインハウスの時代」と語る長屋さんに、インハウスデザイン組織のこれからを聞いた。
組織の形に企業のデザイン戦略が現れる
室井▶ 僕は博報堂で13年間働いた経験から、インハウスデザインの組織=企業のデザイン戦略そのものと感じています。その点、長屋さんはトヨタ自動車でプロダクトデザインやレクサスブランドの立ち上げなど、デザイン組織のリーダーとしてさまざまな経験をされていますが、まずは2012年にヤマハ発動機に新設されたデザイン本部へ籍を移された経緯を教えてください。
長屋▶ ヤマハはデザイン本部長を迎えるにあたり、3つのオーダーを出していました。そこに最もマッチしていたのが私だったので、複数候補の中から白羽の矢がたったようです。そのオーダーとは、(1)デザインのエキスパートとして現場のリーダーができる人 (2)ブランドを引っ張っていける人 (3)人材育成ができる人です。当時の上司であり、現在はレクサスの社長である福市得雄さんから「お前しかいないだろう」と言われたので、移籍を決めました。
室井▶ デザイン本部の役割は何ですか?
長屋▶ デザイン本部は、次の3つの部を束ねています。オートバイや四輪バギーなど、弊社の基幹事業のデザインを担当する製品デザイン部。それ以外のボート、水上オートバイ、発電機などの10以上の多様な商品群のデザインをするコーポレートデザイン部。会社の方針をデザイン戦略に落とし込み、先行デザインを考えるデザイン推進部。コーポレートデザインの中にはコミュニケーションも含まれていて、PRや空間デザイン、ショー、弊社の発行誌のデザイン監修など、多岐に渡ります。
室井▶ ヤマハに籍を移された際に第三者的な立場で見て、どのような課題があり、今後何をやっていくべきだと思いましたか?
長屋▶ ヤマハに限らず、日本企業全体で、経済危機を経験してきた過程でものづくりがどんどん弱くなっているという危機感を持っています。日本は技術立国と言われることがありますが、高度な品質の部品を供給するような「技術」の時代から、今後はひとつの商品を完成させるのに必要な「デザイン」が重要な役割を担う時代になります。弊社の社長は「デザインは経営の3本柱の1つ」と明言しているので、私たちが率先してデザイン立国の企業としての成功例を早くつくりたいと思っています。
室井▶ デザイン立国の企業としての成功例をつくるうえで、必要なものは何だと考えますか?
長屋▶ アジア全体に言えることですが、デザインや知的財産権に対するリスペクトが弱い傾向があります。そこの意識をグローバルレベルに高める必要がありますし、そのレベルに達した日本企業をつくっていかなければなりません。私はヤマハがそれをできる場所だと思ったので …