IDEA AND CREATIVITY
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青山デザイン会議

「伝わる」力は、どこから生まれる?

秋山竜次/尾形真理子/水野良樹

メディアが多様化し、SNSで情報を取ることが当たり前になった現在、一つの情報に深く向き合う時間が減っています。タイトルだけ斜め読みして、情報を得たような気分になっている人も多いのではないでしょうか。それゆえに、発信側が本当に伝えたいことが、なかなかうまく世の中に伝わらない、時には言葉だけが一人歩きし、本意ではない伝わり方をすることもあります。また若い世代になればなるほど、文字を「読む」のではなく、YouTube、Instagram、スナップチャット、LINE LIVEなど「見る」ことに重点が置かれています。こんな時代ゆえに伝えたいことを「きちんと伝える」ことができるのか、疑問すら感じることもあります。逆にきちんと伝えることができれば、言葉もビジュアルも人々を動かす大きな力になります。そこで今回の青山デザイン会議では「伝わる力」をテーマに、言葉とビジュアルのコミュニケーションについて考えました。見た目も語りも“架空のクリエイター”になりきって話題を集めているロバート秋山竜次さん。多くの女性の共感を呼ぶ広告を制作するコピーライター 尾形真理子さん。そして、幅広い世代の心をつかむ歌詞とメロディーで人気のいきものがかりの水野良樹さん。言葉とビジュアルでいま力強く発信しているお三方にご登場いただきました。

Photo:parade inc/amanagroup for BRAIN

表に立つつくり手、匿名のつくり手

尾形▶ 広告の仕事は基本的に自分の名前が世には出ません。私が書いたコピーであっても、企業の言葉として世に出ていく。匿名で、完全に裏方の仕事です。商品や企業の言葉がどうすれば生活の隙間に入っていけるのか、コピーを書くときによく考えています。その点でお二人が世の中に伝える際の著名性の言葉とはだいぶ違うと思います。秋山さんがさまざまな職業の人になりきって演じる「クリエイターズ・ファイル」は、いつもどのようにつくっていらっしゃるんですか? 秋山さんだけど、秋山さんではない別人を。

秋山▶ 自分の中には「こういう職業の人って、多分こういうこと話しているはず」ということだけで、つくっています。だから、下調べなどは一切していません。名前と場所だけ決めて、その場の感じで話しているだけ。フリーペーパーはインタビュー形式で掲載しているので、「3時間、質問責めにしてくれ」とお願いして、その様子を撮影しています。こういう人だったら絶対に、これ言ってそう!みたいなものが出ると、自分でも最高に気持ちいいですね。とはいえ、話すべき内容が全く思い浮かばず、実りがなかったときもありますが。

水野▶ 僕が「クリエイターズ・ファイル」を見て面白いと思ったのは、匿名でまさにその姿になっているにもかかわらず、秋山さんご本人も垣間見えてくるところです。コピーは匿名性が高いと思いますが、尾形さんじゃないと書けない部分があるんじゃないですか?例えばルミネの「似合ってるから、脱がせたくなる。」というコピー。僕は日頃、女性ボーカルが歌う、女性目線の歌を作詞していますが、自分がこれを書けるかと想像したら、絶対に書けません。というのは、男性の僕の視点からすると、「脱がせたい」というのが本音になってしまう。だから、その言葉を書くことに自分の中で恥じらいが出てしまうんです。あれは女性の、尾形さんならではのコピーだと思います。お二人とも匿名性があると言いつつも、ご自身が出ている気がするんです。

尾形▶ ルミネのコピーを見て「失恋したときに背中を押された」と言われたことがあります。私はあくまでも商品を売るためにコピーを書いているわけですが、そう感じてもらえる。それは、みんなが言葉にはしていないけれど持っている「共通認識」を意識して書いているからではないかと思います。例え独りよがりと感じることであっても、みんなが口に出さずにそう思っていたら、それは「共通認識」になる。それがコピーを強くするものではないかと考えています。でも最近、怖いのは、私は「無であるべき」と思いながらコピーを書いているのに、CMが流れた後に「あれ、尾形さん書いたでしょう」って言われることがあること。やっぱり何らか出てしまうものがあるんでしょうね。

水野▶ いきものがかりはボーカルが吉岡聖恵という女性で、主に作詞・作曲を担当するのは僕や、山下穂尊という男性メンバー。性別も違うし、性格も全く違う。それに、音楽って本来は自分自身の中にあるものを表現するものだと思っていたので、自分のことを何も書けないと悩んだときもありました。でも続けるうちに、「自分のことを言わないほうがいい。聞いてくれる人がどう思うかを大切にする」という方向に自然に変わっていきました。その「自分で書いている、または演じているけど、自分じゃない」というところに尾形さんの広告コピーや秋山さんのなりきりと共通点があるのではないかと思っているのですが。

尾形▶ 水野さんがバンドでやっていることは「自分の言葉」というよりも、みんなが共感できる歌をつくり、バンドの世界観をつくり…と、広告で言えばまさにクリエイティブディレクターの仕事ですよね。客観性だけでも、100%体重を乗せてもダメな立場で、そのバランスをうまく取っていらっしゃるんだと思います。でも、これだけ客観性がある水野さんが書く詞だからこそ、あれだけ多くの人に届くんだと思いますよ。

水野▶ 一般に、アーティストは自分で歌ってこそ、という考えもありますが、僕はバンドでは言葉を発する役割ではない。それを自覚していながらも、お恥ずかしい話ですが、自分が作詞したものが人の手柄になると嫌だという気持ちもあるんです。でも、「詞がいい」と言われるのは嬉しいので、その気持ちのせめぎ合いがよいものに繋がる部分があるとも思っています。小学生でも、会社帰りにカラオケで歌っても良い歌にしたいと思いながら書いていますが、やっぱり吉岡が歌うから通じるところがあるんだろうなということは実感しています。常にそういうジレンマがあり、それと戦うことが曲をつくる上では大事なのかなと。

秋山▶ 僕はやっぱり目立ちたい気持ちが強いんです。今は他の芸人から「コントをつくってほしい」というオファーも来ますが、基本的には自分でやったほうが早いし、ウケるので、自分でやりたいタイプ。ネタを他でやってもらったこともありますが、僕の脳ミソでつくったものなので、自分がやっているものを超えないんですよ。

水野▶ 目立ちたいという理由と違って、自分が考えたネタの理想に近づくために、自分がやった方が早いというのはよくわかります。作品をよくするためには、おそらくそのほうがいいはずなんです。僕がもし自分で歌うことを前提に曲をつくるのであれば、全く違う頭が働くような気がします。まだ、そこに真剣に取り組んだことはないのですが。

尾形▶ 水野さんは表に出ているけれど、意識は裏方ですね。

秋山▶ ちなみに、水野さんは女性目線の詞をどういう風に書くんですか?

水野▶ 方法は2パターンあって、秋山さんのようにイメージで書く方法が1つ。たとえば、少女マンガのヒロインみたいにデフォルメされた女性像を想像すると、男性でも女性の詞を書くことができます。もう1つは男女共通の認識が必ずあるので、そこを意識して書くという方法です。あとは小道具を変えることも大事ですね。例えば、アイスコーヒーは男性、アイスティーは女性のイメージが何となくあるので、そのイメージを効果的に使ったり。

秋山▶ わかります。お笑いでも小道具は大事で、線の薄いコントでも小ボケを豊富に入れると、厚みが出るものですから。

水野▶ 秋山さんはコントをつくるために、日ごろ意識していることはありますか。

秋山▶ 子どものときから一人遊びが好きで、街で見かけた人を真似していました。いまも街中で変な温度を感じる人を見かけたら注目してしまうし、ちょっと面倒くさい人に面と言えないから ...

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