2016年 カンヌ 日本の受賞は全部で49作品
パナソニック「Life is electric」をはじめ、デザイン部門は相変わらず強い日本。しかし、他の部門が厳しい結果となった。カモ井加工紙「MT」と資生堂「HIGH SCHOOL GIRL?メーク女子高生のヒミツ」はこれまでに数多く国際広告賞を数多く受賞しているが、今回も2部門以上で受賞。オーストラリア政府観光局「GIGA selfie」も3部門での受賞となった。
カンヌライオンズに見る世界の広告2016
初めてカンヌライオンズに参加したのが1996年。以来、20年間にわたり参加しているAoi Pro. の北村久美子さんは今年、何に注目したのか。テクノロジーとの向き合い方を中心に紹介してもらう。
Kevin Kellyのセミナー「Predestination(宿命)
PIXARのセミナー「Once Upon aTime in the World of Data Creativity(昔々、あるところに『データクリエイティブの世界』がありました)」
今年の受賞作は、人間による制作よりも、AIやデータ解析などテクノロジーを使った表現が評価された。例えば、サイバー部門とクリエイティブデータ部門のグランプリを受賞したオランダの銀行INGによる「THE NEXT REMBRANDT」は、レンブラントの作品を3Dプリントで再現したものだ。このプロジェクトでは、346枚のレンブラントの作品を分析し、絵画の特徴、描かれている人物、さらに当時の歴史的な背景などをデータ化し、機械学習の力で新しいレンブラントの作品を生み出したのだ。またイノベーション部門でグランプリを受賞した、人工知能が碁をプレイするGoogleの「GOOGLE DEEPMIND ALPHAGO」や、同部門でイノベーションライオンを受賞した、指定した条件で自動的に作曲する「JUKEDECK」のどちらも人工知能、自動化をキーワードにしている。これらの受賞作だけを見ると、絵画、ファッション、ゲーム、作曲、アニメーションなどすべての分野において、テクノロジーがクリエイティブにおいて人間を上回ってしまったように見える。
このことを証明するかのように、RazorfishとContagious Magazine による「Cracking the Code of Creativity( クリエイティビティの真髄にあるコードを読み解く)」と題したセミナーでは、カンヌの過去25年間分の受賞作を分析し、クリエイティブがより技術的なものになり、自動化が進んでいることを示した。これは、人間のクリエイティビティが果たすべき役割についての問題提起でもある。
しかし、単に「人間 vs 人工知能」といった浅はかな構図ではなく、優れた表現の裏には人間とAI、データ、ロボットの共創があることが、複数のセッションを通して語られたことは、これからのクリエイティブを考える上で見逃してはならない。いくつかのセッションで特に印象的だったポイントを紹介しよう。
WIRED創刊編集長のKevin Kelly 氏は、「Predestination(宿命)」と題したセミナーの中で、人工知能の今後について「『AI』は『Artificial Intelligence』よりも『ArtificialSmartness』と呼んだほうがふさわしい」と述べた。これは、AIが人間型のロボット、知能ではなく、使いやすいものに変わっていくということだ。さまざまな賢さがいろいろな場面で使われることを「いくつもの楽器で構成されるシンフォニー」と表現した。
データとの関わりについて、広告主の立場から意見を述べたのはUnder ArmourのFounder/CEOのKevin Plank氏だ。セミナー「From Underdogs to Game Changers(負け犬からゲームチェンジャーへ)」の中で、今、同社が競合と見ているのは、「歴史あるシューズメーカーではなく、これから服や靴を作るかもしれないアマゾンやアップルだ」と明言した。その上で同社が乗り出したコネクティッド事業について、消費者からデータを吸い取るだけでなく、「毎日多くの決断に迫られている人々に、判断の役に立つ材料をお返ししたい」と語った。