2016年 カンヌ 日本の受賞は全部で49作品
パナソニック「Life is electric」をはじめ、デザイン部門は相変わらず強い日本。しかし、他の部門が厳しい結果となった。カモ井加工紙「MT」と資生堂「HIGH SCHOOL GIRL?メーク女子高生のヒミツ」はこれまでに数多く国際広告賞を数多く受賞しているが、今回も2部門以上で受賞。オーストラリア政府観光局「GIGA selfie」も3部門での受賞となった。
カンヌライオンズに見る世界の広告2016
全世界から集まるクリエイティブ。各部門の審査員たちは、それぞれ審査基準を設け、細かく審査を行う。2016年、その頂点に立ったのは、どんな作品なのか。グランプリ作品を中心に審査員の講評とあわせて見ていこう。
グランプリ・フォー・グッド
Macma「Manboobs」DAVID(アルゼンチン)
乳がんの早期発見を啓発する非営利団体・MACMAが制作した、乳がんのセルフチェックのハウツー動画。FacebookやInstagramでは、女性が胸を露出している画像やヌード画像を投稿することが制限されていることから男性モデルを起用、女性の手で男性の胸を触診する動画を制作した。肥満体型の男性の胸は、英語で「Man Boobs(Boobsは胸を意味するスラング)」と言う。SNS上で過去最多のシェアを獲得した乳がんセルフチェック動画になっただけでなく、SNS上の検閲ポリシー論争まで引き起こすこととなった。
ファーマ部門審査員 ショーン・ライリー(マッキャンヘルスケアWWJ)
人々の生命や生活をクリエイティビティでどう変えられるか?ひとつのアイデアをクラフトマンシップでどう磨き昇華できたか?ファーマ部門の審査員は大きくこの2つの視点で審査をしました。
グランプリに選出したのは、英国の家電メーカーフィリップスの「BREATHLESS CHOIR」。歌いたいのに歌うことのできない、肺など呼吸器障害を持つ人々が合唱団を結成し、アポロシアターのステージに立つまでを綴った感動的なドキュメンタリーフィルムです。呼吸法を工夫することで歌える、夢は実現できるということがフィリップスのイノベーションの姿勢と結びついていました。
ゴールド受賞作では、インドの「LAST WORDS」は、最期を看取るのは家族よりも医者であるという事実を改めて気づかせるものでしたし、ブラジルの「PARKINSOUNDS」は、テクノロジーでパーキンソン病患者を歩けるようにするための取り組み。アラブ首長国連邦の「THE NAZARINITIATIVE」はローテクのアイデアだけれども、ドバイの建設現場で働く文字の読み書きができない労働者にもわかる形で、ピクトグラムの視力検査表を創作した素晴らしいアイデアでした。
議論と投票を幾重にも重ねて各賞を導き出したのですが、振り返ると、いよいよファーマ部門が広告の領域に足を踏み入れてきたのだという実感が湧きました。ストーリーを語るコミュニケーションと、人の人生を変えるようなクリエイティビティを融合させるととてもパワフルなコミュニケーションになることがわかります。
個人的に推したいのは、当社の仕事で恐縮ですが、ブロンズを受賞したマッキャンヘルス香港の「JJ-MAN」です。男性の早漏に関するコミュニケーションで映画『スパイダーマン』のパロディ。医療に関するメッセージは制約が多い中、こうしたタブーの表現に挑むことができるのは、勇気あるクライアントとエージェンシーだからこそだと思います。
グランプリ対象とならない、非営利団体や公的機関によるコミュニケーション施策の中から最も優れていたものに贈られるグランプリ・フォー・グッドには、アルゼンチンの非営利団体MACMAの乳がんのセルフチェック動画「MANBOOBS」に決まりました。女性が胸を露出しているヌードはSNSで投稿制限があるため、肥満体型の男性を起用しユニークにレクチャーしています。
ファーマ部門の来年以降の期待値としては、誰もが“自分ゴト化”できるコミュニケーションがもっと増えるといいなと思います。
ファーマ部門 グランプリ
PHILIPS「BREATHLESS CHOIR」OGILVY&MATHER LONDON(UK)
嚢胞性線維症や肺活量の低下、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)など、重い呼吸器系疾患に苦しむ18人が合唱団を結成。動画は、呼吸することに必死で歌うどころではなかった初日から、NYのアポロシアターでコーラスに挑戦するまでの1週間をドキュメンタリータッチで描く。…