異業種コンテンツに飛び込む武器「パイロット」の可能性
映画や番組の制作前に試験的につくられる短い映像「パイロットフィルム」をご存じでしょうか。名作映画から最新作まで、そうした貴重な映像を集めた映画祭「渋谷パイロットフィルムフェスティバル」が、2024年12月に開催されました。発起人を務めたのは、Whateverの川村真司さんと、CHOCOLATEの栗林和明さん。
青山デザイン会議
タブーに挑戦する、前例がないからやってみる、リスクをあえて取りにいく…こうした「攻める」マインドは、昔から企画を面白くしてきた。だが、コンプライアンスがますます重視され、ネット上で炎上が起きやすくなった今、そのハードルは昔よりも上がっている。あえてタブーを冒すより、「いい話」や既に人気のある企画を元にした方が通りやすい。
だが、逆にSNSが普及している状況下だからこそ、いいコンテンツが出れば、そのバックグラウンドに関心が持たれ、検索され、まとめられ、シェアされるようになっている。SNS時代になって、商品のバックグラウンドにある企業姿勢への関心が高まったように、クリエイティブの作り手の姿勢が問われ、そこにファンがつくようになっているのではないか。
今回の青山デザイン会議では、テレビ東京プロデューサーで人気ヒット番組を多数生み出してきた佐久間宣行さん、フジテレビ最年少ディレクターとして注目を集める萩原啓太さん、NHKで斬新な番組企画を送り出してきたディレクターの藤江千紘さん、話題性の高いCMを手がける電通 CMプランナーの佐藤雄介さんの4名が登場。「攻め」の姿勢で邁進し、魅惑的なコンテンツを生み出すための方法を話してもらった。
佐久間▶ テレビ東京は、僕が1999年に入社した当初、お笑い番組はほぼゼロだったんです。だから“攻める”というよりは“開拓した”という方が近くて、手探りで進んでいくうち独自の表現にたどりついた感じです。スタッフのノウハウや芸能プロダクションとのつながりなど、あらゆるものがなかったので、必然的に、まだ無名の若手芸人だった劇団ひとりやバナナマン、おぎやはぎと番組をつくることになりました。それが今の『ゴッドタン』などの番組につながっています。
萩原▶ 『ゴッドタン』を一視聴者として見ていて、「この番組はやばい!」と思っていました。僕も見た人がそんなふうに友達に話したくなる番組をつくりたいと思っています。今演出を担当している『人生のパイセンTV』は、たとえ人からバカと言われようが自分のポリシーを貫く“愛すべき先輩”たちから、人生を楽しむコツを学ぶというもの。「攻めてる」とよく言われますが、僕も攻めようとして作っているわけではなくて、僕自身が見たときに「バカなことやってるな」「アホな番組だな」と思いたいだけなんですよ。僕はそれまで、『笑っていいとも!』や『もしもツアーズ』を担当してきたんですが、良くも悪くも教科書のように完成された番組だったので、踏み外しようがなくて。溜まりに溜まった「自分ならこうする」を今、一気に発散している感じです。「万物をチャラくしたい」という思いでやってます(笑)。
藤江▶ NHKの番組『ねほりんはほりん』を企画しました。この番組は、人形に扮した顔出しNGの“訳あり”ゲストに、お笑い芸人の山里亮太さんとYOUさんが根掘り葉掘りインタビューしていくトークバラエティです。私も結果的に「タブーに挑戦した」と言われますが、元々は「ネットを見ている若い人たちが見たくなるコンテンツを開発するように」という会社からの命題があったんです。ネットって、よく赤裸々な話や本音が飛び交って盛り上がっていますよね? あの面白さをテレビでも出したかったんですが、訳ありな人たちは、皆さん基本顔出しNGなので、出演して語っていただくのが難しくて。無理に顔出ししてもらって発言が丸くなるのはつまらないし、かといってモザイク処理をするのも…と考えていくうちに、NHKには人形劇の伝統があるから、ゲストを人形にしちゃえばいいんだ!と思いついてこの形になりました。
佐藤▶ 僕も萩原さんと似ていて、10代の頃広告やテレビの世界で働きたいと思ったので、今もその頃の自分が面白がるものを作りたいと思っています。すると必然的に「やんちゃ」で「攻めた」企画になっていくのかと。僕にとってはCMの中でストンときれいに理屈が落ちるだけでは面白くなくて、テレビCMという限られた秒数の映像でも、そこで暴れているものが、Webや他の場所に拡散していくようにしたい。そこを頑張るのが自分の中のルールです。
佐久間▶ 今日は皆さんに「何からコンテンツを思いつくのか?」を聞いてみたかったんです。映像のパッケージのイメージからなのか、企画からか。どちらですか?
萩原▶ 僕は企画からです。出演者と「こういうことをやりたい」と話しているうちに固まっていくことが多いです。『人生のパイセンTV』はスタジオによくゲストを呼ぶんですが、収録中にMCのオードリー若林さんも一緒に、こんな企画がやってみたいね、とそのまま1時間くらい話しこんでしまうことが多いんですよ。オンエアでは1分も使いませんが(笑)。スタジオにはお客さんもいるので、若林さんやお客さんと一緒に飲んでいるような感覚です。その中から実際に企画になったものもあります。
藤江▶ 『ねほりんはほりん』は、「普段SNSしか見ない人たちの中で話題にされる番組を作りたい」という目的から始まっています。切り口は、友達としゃべっている時に思いつくこともあれば、視聴者からの意見を見てハッとすることもあり、色々です。
佐藤▶ CMの場合はクライアントからのオリエンが前提ですが、その上で(1)自分が面白いと思うもの(2)世の中で空いてるもの(3)テレビ番組や映画ではできない表現、の3つの視点で考えています。そうすると新しい表現になると信じています。藤江さんの『ねほりんはほりん』は、あえてNHKの文脈を外そうとしたんじゃないんですか?
藤江▶ 結果的にそうなったらいいとは思いますが、「NHKっぽくない番組を作ろう」と考えたわけではありません。例えば民放さんの番組のような尖りかたをしたものを作るのはNHKは苦手だし、そもそもあまり通らない気がします。私はそれまで人を取材する番組を多くやってきたので、そこに「プロ彼女」のようなこれまでNHKが扱ってこなかったテーマと「人形劇」を掛け合わせたら、たまたまNHKっぽくない番組になりました。
佐久間▶ 「攻めた」と感じるのはあくまで結果ですよね。学生からよく「攻めた企画はどう考えるんですか?」と聞かれるんだけど、「そうじゃない」と思っています。実は企画を「通す」ことが大事だし、大変ですよね。皆さんそこはどうしてますか?
萩原▶ 僕、以前は全く通らなかったんですよ。字面で企画の面白さが伝わらなくて、上の人にも「何をやりたいのかわからない」と言われるばかりで。こんな外見なので余計に。「ちきしょー」って思ってました。だから、勝手に密着取材を始めることにしたんです。ある日「既にVがあります。放送できます」と無理矢理通しました(笑)。
佐久間▶ テレビの企画は、字面だと伝わりづらいですよね。僕も8年くらい前、特殊メイクを使ったドッキリの企画がやりたくて、「バナナマンの日村が特殊メイクで黒人に変身するんですよ」と編成に説明したんだけど、伝わらなくて。そこで自分に特殊メイクをしてもらって編成のフロアに行き、「プロダクション会社の社長です」と挨拶して、後から電話して「あれ俺だって気づきませんでしたよね?」と通したことがあります。特殊メイク代は自腹覚悟で。
藤江▶ 面白い(笑)。私は理論武装をします。「私は決して下世話なことがやりたいわけではなく、人を描きたいんです」と。NHKとしてこの企画を行う意義を強調して説明しました。
佐久間▶ NHKならではの通し方ですよね。だから「攻めたことやりたいんですよ!」という学生には、「いやいや、そのための理論武装が必要だよ」と言いたいんですよ。
佐藤▶ 理論武装、大切ですよね。僕の場合は …