THE ONE SHOW2016レポート
カンヌライオンズ、クリオ賞と並ぶ、世界三大広告賞の一つ、THE ONE SHOW。『ブレーン』は今年、THE ONE SHOWとメディアパートナーを提携したことを機にニューヨークで取材を敢行しました。同賞のクリエイティブボードメンバーであるPARTY 伊藤直樹さんとともに審査員、そしてボードメンバーを訪問。いま彼らがどんなことを考え、新たなるクリエイティビティを生み出しているのか。その組織のあり方とともに考えます。
THE ONE SHOW 2016 レポート
2013年に設立されたPARTY NY。川村真司さんと清水幹太さんを中心に、現在スタッフは5名。この2年半で、広告だけでなく、さまざまなプロダクトやサービスを開発し、現地で話題になるプロジェクトを複数手がけている。そんなPARTY NYの現在とこれからについて聞いた。
川村▶ 東京では広告やブランディングの仕事が中心でしたが、PARTY NYの設立当初から目指してきたのは、世の中に新しい価値を提案するような、見たことないアイデアを開発しながら、なおかつ僕らの生計もきちんと成り立つ――クリエイティブの新しいビジネスモデルをつくることです。それを実現するために注力したメソッドがプロトタイピングやR&Dであり、それを実現できる場所として選んだのがニューヨークでした。
清水▶ 日本の広告業界には正直なところ、いいものをつくるためのシステムがないと感じています。企業の中でいくつもの決裁を通した結果、企画が丸くなってしまったり、多くの人が納得するような案が選ばれてしまったり…。実際に手を動かしている自分たちが気持ちを入れてつくっても、どんどんそぎ落とされて、最後に出てきたものはなぜか平坦な、時にはつまらないものになっている。もちろんNYにも同じ構造はあるわけですが…。でも、こちらは日本と比べて、面白いものに対する反応が大きい。そこに対する期待は大きいです。
川村▶ いまPARTY NYでは、3つの柱を掲げています。1つはクライアントからのブリーフに応える、これまで通りのコミッション・ワーク。2つ目がサンスターのスマートハブラシ「G・U・M PLAY」のように、企業のR&Dのパートナーとなり、一緒に開発を進める仕事。3つめは、昨年発表した愛犬用LED ベスト「DISCO DOG」に代表される、自社プロダクトの開発です。将来的にはコミッション・ワークを減らして、自社プロダクトに力を入れていきたいと考えています。「DISCO DOG」も話題になり、売れたものの、正直儲かるとは言いがたい。でも、その分自分たちに知見が蓄積され、PR効果は圧倒的でした。いまはPARTY NYにとって、まさにトライ&エラーの時期ととらえています。
清水▶ 昨年秋にNYブルックリンのギャラリーでプロトタイプ展「FRIENDLY FUTURES」を行いました。そこで展示したのは、DISCODOGやTime Travel Radio、Booküなど、主にNYで開発したサービスやプロダクトです。その一つTime Travel Radioは、時間旅行ができる音楽プレーヤー。ダイヤルを合わせるのはラジオステーションではなくて、年。例えば1999年に合わせると、その年のヒット曲が流れます。展覧会では好評だったのですが、今後の展開はまだ模索中です。まずはみんなに見てもらい、一緒につくりたい企業が現れたら、製品化に向けてスケールアップしていきたいと考えています。
川村▶ 展覧会には広告やデジタル系の人だけではなく、いろいろな人が見に来てくれました。アート文脈で見てくれる人もいるし、アートっぽいけど広告にも使えそうと思ってくれた人、メディアアートとしてとらえてくれた人と反応はさまざまでした。NYには僕らと同じようにアートとコマースとテクノロジーの中間の、ジャンル分けしにくいエリアで活動している人が結構いて、このときの展示はそういう人にはすごく響くものだったみたいです。
清水▶ 自社開発だけではなく、アメリカのクライアントの仕事も徐々に増えています。昨年手がけたMTV「Look Different」という社会啓蒙キャンペーンの施策は、こちらのメディアで話題になり、それによってPARTY NYという存在も認知されるようになってきました。
川村▶ MTV「Look Different」のキャンペーンは、人々が無自覚に持っている社会的偏見にスポットライトを当てることが目的。昨年のテーマは、「白人特権」でした。アメリカではタクシーを停める、家を借りる、日常のあらゆるところで白人が優先されるという現実があります。そのことを伝えるために僕らがつくったのが、白人派遣サービス「White Squad」のCMとWebサイトで ...