音を感じるインターフェイス ONTENNA
「ねこのヒゲが空気の流れを感じるように、髪の毛で音を感じることができないだろうか」。こんな発想から制作が始まったのが、聴覚障がい者が音を感じることができる装置「ONTENNA」だ。
企業を進化させる IoTのクリエイティブ
最先端のテクノロジー企業やスタートアップ企業などが集うフェスティバルSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)が今年も3月にオースティンで開催された。本年度はどんな新しい技術が登場し、議論が行われたのか。インタラクティブ部門を中心に押さえるべきトピックをレポートする。
SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)は1986年に始まった音楽の祭典で、1998年よりインタラクティブ部門を開設。現在「ミュージック」「フィルム」「インタラクティブ」の3部門があり、10日間で約10万人の来場者がある。
インタラクティブ部門には全世界より情報感度の高いイノベーターやアーリーアダプター、投資家らが集まっており、Twitterは本イベント内でのアワード受賞を契機に全世界的なブームになったことはよく知られている。出展するスタートアップにとっては、自社のサービスをプロモートし資金調達の機会を得るなど、グロースハックのチャンスにあふれた場所となっている。
一般のビジネスカンファレンスとの大きな違いは次の3つ。(1)現在進行形の議論:タブーや倫理的にグレーゾーンの話題に切り込み、現在進行形の議論を行うこと。(2)領域侵犯:政治、法律、人間哲学、医療、環境、エンタテインメントなど、幅広い領域に関わるセッション・展示が行われること。(3)プロトタイプ:商品化されたプロダクトのみならずこれから商品化を模索していく段階のプロダクトが集まること。スタートアップ期の企業が集まり投資家向けにプレゼンすることから、テクノロジーによる、産業・社会の進化の萌芽を見ることができる。世界で他を見ない特異なポジションのイベントだ。
開催地はテキサス州オースティンで、米国内でも飛びぬけた経済成長率を誇る都市の一つである。Dell創業の地であり、IBMがオフィスを開設してからは、IBM出身のエンジニアが続々とベンチャー企業を興し、やがてスタートアップ支援のインキュベーターや投資家が集まるようになった。サンフランシスコからの移住者が最も多い街であり、今では「シリコンヒルズ」と呼ばれている。
今年30周年を迎えたSXSWの目玉となったのが、米オバマ大統領のキーノートスピーチだ。テクノロジーを使い、いかに一般市民の生活を変えていくか、その取り組みと期待を話した。オバマ政権は2012年より「21世紀型デジタル政府の確立」を表明している。スピーチでは、次の3点の推進によって、市民生活を向上させてきた実績を強くアピールした。
行政手続きの電子化と、誰もが社会保障制度について手軽に調べ申込できるUI設計。奨学金制度プラットフォームの「FAFSA」や、健康保険制度プラットフォームの「Health care.gov」の取り組みを紹介した。
デジタルプラットフォーム構築に力を入れる理由についてオバマ大統領は「アンチ政府組織は、国から十分なサービスを得られていないという国民のフラストレーションから生まれる。だからこそ政府は国民が十分なサービスが得られるプラットフォームを拡充する必要がある」と語った。
2015年オバマ政権は精密医療に250億円の資金を投じると発表した。精密医療とは、アメリカで推進されている個人ゲノムの大規模収集とデータ統合、解析プロジェクトのこと。従来型の医療サービスは、多数の患者の症状・治療に対する反応の平均をとり、それを普遍化した治療として展開させてきた。しかし、人間は遺伝子レベルでそれぞれ異なる特性をもっており、特定の治療薬に対する反応には個体差がある。精密医療では患者を遺伝子情報レベルでいくつかのグループに分け、それぞれに適した治療法・あるいは未病のためのヘルスケアサービスを展開する。
「open.whitehouse.gov」サイトを開設し、政府機関の活動を市民にわかりやすく提供し、透明化させ、行政機関の政策決定に際し、市民の参画を促している。また、「Data.gov」サイト上で、政府が保有するあらゆるデータを公開している。2016年時点でその数は19万3000種におよぶ。ホワイトハウスにはGoogleやFacebook出身の有能なエンジニア達による国家のデジタル戦略推進チームが組織されており、こうした政策を推進している。
「さまざまな社会問題の解決に取り組んでいくためには、ここに参加しているような民間コミュニティの力が政府にとって不可欠」とオバマ大統領。データとオープンガバメントの時代こそ、「Civic Engagement(市民・民間の参画)」が重要であることを強調した。
SXSW期間中の3月15日、人工知能(AI)の領域においてエポックメイキングな出来事が起きた。Googleが買収したロンドン発のスタートアップ企業「DeepMind」社が開発したAI囲碁ソフト「AlphaGo」が、世界最高峰の囲碁棋士イ・セドルに勝利したのである。AIが人間を超える時代がいよいよ到来かと大きな反響を呼んだ。
いまAIを語る上で重要なキーワードとなっているのが「ディープラーニング」と「シンギュラリティ」だ。現在AIは無限のパターン認識と経験学習によって、人の顔や音声を認識する、趣味嗜好を理解する、自動車の自動運転を可能にする、AmazonやNetflix上で商品のリコメンドを行うといったことに活用されている。しかしDeepMind社が目指すAIは、脳科学の知見を機械学習に取り入れたディープラーニングによって、コンピューターに複雑な判断と計算、学習機能を持たせるものだ。CEO デミス・ハサビスは「機械に知性を持たせる」ことが可能となる技術だと説明している。
「シンギュラリティ(技術的特異点)」とは、技術の進化により、人類が、到底想像することができない・後戻りできない未来を迎えることになる時点のこと。米発明家・未来学者のレイ・カーツワイルが2010年発表した著書で、2045年には人工知能が生命を超越する瞬間が来ると発表し、大きな話題となった。
昨年2015年のSXSWにおいてベストスピーカーに選ばれたマーティン・ロスブラットは、亡くなった妻の思考パターンをアルゴリズム化し、AIで再現する研究を行っている。昨年はAIが人間を超越するのか、生命を機械に代替させることの倫理観が議論の焦点となったが、2016年はAIと人間の役割の違い、棲み分けに言及するメッセージが多く見られた。
「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」監督・脚本・製作を務めたJ・J・エイブラムスはセッションで、「映画監督としては、常にテクノロジーを使いつつも、それを観る側に悟らせない配慮をしてきた。アナログを大切にし、リアリティを失わないこと。登場人物の心の機微や、人間関係の繊細さなど、ヒューマニティをいかに精緻に描き出していくか ...