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企業を進化させる IoTのクリエイティブ

世界中からイノベーターが集合 SXSW2016の主要トピックス

最先端のテクノロジー企業やスタートアップ企業などが集うフェスティバルSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)が今年も3月にオースティンで開催された。本年度はどんな新しい技術が登場し、議論が行われたのか。インタラクティブ部門を中心に押さえるべきトピックをレポートする。

会場の様子。会期中、オースティンには約10万人が訪れる。日本からの参加者は2015年は約450人。今年はさらに増加している。

「シリコンヒルズ」オースティンで開催されるテクノロジーの祭典

SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)は1986年に始まった音楽の祭典で、1998年よりインタラクティブ部門を開設。現在「ミュージック」「フィルム」「インタラクティブ」の3部門があり、10日間で約10万人の来場者がある。

インタラクティブ部門には全世界より情報感度の高いイノベーターやアーリーアダプター、投資家らが集まっており、Twitterは本イベント内でのアワード受賞を契機に全世界的なブームになったことはよく知られている。出展するスタートアップにとっては、自社のサービスをプロモートし資金調達の機会を得るなど、グロースハックのチャンスにあふれた場所となっている。

一般のビジネスカンファレンスとの大きな違いは次の3つ。(1)現在進行形の議論:タブーや倫理的にグレーゾーンの話題に切り込み、現在進行形の議論を行うこと。(2)領域侵犯:政治、法律、人間哲学、医療、環境、エンタテインメントなど、幅広い領域に関わるセッション・展示が行われること。(3)プロトタイプ:商品化されたプロダクトのみならずこれから商品化を模索していく段階のプロダクトが集まること。スタートアップ期の企業が集まり投資家向けにプレゼンすることから、テクノロジーによる、産業・社会の進化の萌芽を見ることができる。世界で他を見ない特異なポジションのイベントだ。

開催地はテキサス州オースティンで、米国内でも飛びぬけた経済成長率を誇る都市の一つである。Dell創業の地であり、IBMがオフィスを開設してからは、IBM出身のエンジニアが続々とベンチャー企業を興し、やがてスタートアップ支援のインキュベーターや投資家が集まるようになった。サンフランシスコからの移住者が最も多い街であり、今では「シリコンヒルズ」と呼ばれている。

キーノートスピーチはオバマ大統領 アメリカ政府のデジタル戦略

今年30周年を迎えたSXSWの目玉となったのが、米オバマ大統領のキーノートスピーチだ。テクノロジーを使い、いかに一般市民の生活を変えていくか、その取り組みと期待を話した。オバマ政権は2012年より「21世紀型デジタル政府の確立」を表明している。スピーチでは、次の3点の推進によって、市民生活を向上させてきた実績を強くアピールした。

キーノートスピーチにはオバマ大統領が登場。

1. デジタルプラットフォームの整備

行政手続きの電子化と、誰もが社会保障制度について手軽に調べ申込できるUI設計。奨学金制度プラットフォームの「FAFSA」や、健康保険制度プラットフォームの「Health care.gov」の取り組みを紹介した。

デジタルプラットフォーム構築に力を入れる理由についてオバマ大統領は「アンチ政府組織は、国から十分なサービスを得られていないという国民のフラストレーションから生まれる。だからこそ政府は国民が十分なサービスが得られるプラットフォームを拡充する必要がある」と語った。

2. 精密医療(Precision Medicine)の推進

2015年オバマ政権は精密医療に250億円の資金を投じると発表した。精密医療とは、アメリカで推進されている個人ゲノムの大規模収集とデータ統合、解析プロジェクトのこと。従来型の医療サービスは、多数の患者の症状・治療に対する反応の平均をとり、それを普遍化した治療として展開させてきた。しかし、人間は遺伝子レベルでそれぞれ異なる特性をもっており、特定の治療薬に対する反応には個体差がある。精密医療では患者を遺伝子情報レベルでいくつかのグループに分け、それぞれに適した治療法・あるいは未病のためのヘルスケアサービスを展開する。

3. 情報のオープン化戦略

「open.whitehouse.gov」サイトを開設し、政府機関の活動を市民にわかりやすく提供し、透明化させ、行政機関の政策決定に際し、市民の参画を促している。また、「Data.gov」サイト上で、政府が保有するあらゆるデータを公開している。2016年時点でその数は19万3000種におよぶ。ホワイトハウスにはGoogleやFacebook出身の有能なエンジニア達による国家のデジタル戦略推進チームが組織されており、こうした政策を推進している。

「さまざまな社会問題の解決に取り組んでいくためには、ここに参加しているような民間コミュニティの力が政府にとって不可欠」とオバマ大統領。データとオープンガバメントの時代こそ、「Civic Engagement(市民・民間の参画)」が重要であることを強調した。

注目トピック(1)「人工知能(AI)」 人間との棲み分けが議論に

SXSW期間中の3月15日、人工知能(AI)の領域においてエポックメイキングな出来事が起きた。Googleが買収したロンドン発のスタートアップ企業「DeepMind」社が開発したAI囲碁ソフト「AlphaGo」が、世界最高峰の囲碁棋士イ・セドルに勝利したのである。AIが人間を超える時代がいよいよ到来かと大きな反響を呼んだ。

いまAIを語る上で重要なキーワードとなっているのが「ディープラーニング」と「シンギュラリティ」だ。現在AIは無限のパターン認識と経験学習によって、人の顔や音声を認識する、趣味嗜好を理解する、自動車の自動運転を可能にする、AmazonやNetflix上で商品のリコメンドを行うといったことに活用されている。しかしDeepMind社が目指すAIは、脳科学の知見を機械学習に取り入れたディープラーニングによって、コンピューターに複雑な判断と計算、学習機能を持たせるものだ。CEO デミス・ハサビスは「機械に知性を持たせる」ことが可能となる技術だと説明している。

「シンギュラリティ(技術的特異点)」とは、技術の進化により、人類が、到底想像することができない・後戻りできない未来を迎えることになる時点のこと。米発明家・未来学者のレイ・カーツワイルが2010年発表した著書で、2045年には人工知能が生命を超越する瞬間が来ると発表し、大きな話題となった。

昨年2015年のSXSWにおいてベストスピーカーに選ばれたマーティン・ロスブラットは、亡くなった妻の思考パターンをアルゴリズム化し、AIで再現する研究を行っている。昨年はAIが人間を超越するのか、生命を機械に代替させることの倫理観が議論の焦点となったが、2016年はAIと人間の役割の違い、棲み分けに言及するメッセージが多く見られた。

「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」監督・脚本・製作を務めたJ・J・エイブラムスはセッションで、「映画監督としては、常にテクノロジーを使いつつも、それを観る側に悟らせない配慮をしてきた。アナログを大切にし、リアリティを失わないこと。登場人物の心の機微や、人間関係の繊細さなど、ヒューマニティをいかに精緻に描き出していくか、観るものをいかに作品に引き込み、息を呑ませるか、ということに心を砕いてきた」と語った。

『WIRED』創刊編集長のケヴィン・ケリーも、人間のクリエイティビティやヒューマニティがシンギュラリティの先に残り続けると語る(詳細53ページ)。「AIは次世代のインフラになる」というケヴィンの予測を基にすれば、DeepMind社を買収したGoogleが次に狙うビジネスは、自社プロダクト開発を超えた「次世代のインフラ提供」であると想像できるだろう。

「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」監督・脚本・製作を務めたJ・J・エイブラムスらによるセッション。

注目トピック(2)「VR/AR」 拡張を続けるVRクリエイティブ

SXSWインタラクティブ代表のヒュー・フォレストが「今年はVR/ARの勢いが目覚ましい」と語った通り、今年のSXSW会場では、エキシビジョン会場や、スポンサー企業によるパビリオン問わず、いたる場所でVRの体験展示を目にした。VRに関するセッションも多様で、VRとジャーナリズム、VR映像制作のノウハウ、VRが生活に与えるインパクト、VRのマーケティング活用などがテーマとなっていた。VRの有力な専門プロダクションも、海外では登場している。

VRの体験展示の一つが、米国のケーブルテレビネットワーク ディスカバリー・コミュニケーションズが制作した映像を体験する「Gillette powered by Discovery VR」。VRで手に汗握るリアルな映像を楽しむ人々の心拍数や発汗が、後ろのモニターで表示される。スポンサーであるGilletteは制汗剤のサンプリングキャンペーンを同時に行うことで、映像を楽しみ汗をかいたターゲットに、製品を試用させるまでの体験をデザインしている。VRを使い、生活者に個人的な体験に落とし込まれた(Inperson)ブランド経験を提供した。

今年は大型の企業出展も多数。SAMSUNGは、ヘッドセットをつけて座席ごと動くVRアトラクション体験で大人気に。

IBMのスタジオでは、ユーザーのSNS書き込みを元にAIシェフワトソンが好みのカクテルを作ってくれる体験プログラムなどを提供。

「Gillette powered by Discovery VR」。VRを体験中の人々の心拍数や発汗が、後ろのモニターで表示される。

また、マクドナルドのパビリオンで行われていた「VR McDonald’s virtual Happy Meal」は、バーチャル空間でハッピーミールの箱の中に入り、ペイントボールや絵の具ブラシを使って箱の内側をペインティングするゲームで、マクドナルドが持つ「fun(楽しい)」ブランド体験を提供する。ダラスのGroove Jones社が手がけた。

NASAでは宇宙飛行士の訓練にVRを導入しているが、SXSWではPlayStationのVRシステム「PlayStation®VR」を使い、宇宙船の外で作業を行うヒューマノイドロボット「Robonaut2」の操作訓練を実施していた。

VRはオンラインとオフラインを繋ぐタッチポイントにおいて、一人ひとりにパーソナライズされた体験を提供し、より深い結びつきを得ることができる。そうした楽しい体験を、生活者側は好んでSNS上で拡散する。VRを通じ生活者にブランドをトライアルさせたり、バーチャル空間でよりリッチなブランド体験をさせたり。VRの普及によって今後目新しさは薄れるだろうが、クリエイティブの幅は確実に広がっていくだろう。

トレードショー会場。

NASAが出展したヒューマノイドロボット「Robonaut2」。「Play Station®VR」で操作する。

今年話題を呼んでいた、本当に食べられるピザを出力する3Dプリンタ。

デジタル玩具が集合!子どもも喜ぶMakers系イベント「SX CREATE」

SXSWでは、Makers系のイベントとして、デジタル玩具やロボットが集まった「SX CREATE」も開催されていた。ここは子ども向けのサービスやプロダクトが多いことが特徴。無料で参加できるとあって、会場内では多くの子どもたちがデジタル玩具で遊び、モノを作って楽しんでいた。

スポンサーで名を連ねるのは、工作の際に使用する工具や3Dプリンタ、オープンソースハードウェア、ソフトウェアを提供する企業や、コンピューター教育の財団など。直感的に楽しめるデジタル玩具が子どもたちには人気で、身体性や体験、遊びといったものがデジタルと繋がっていることが当たり前、という今のデジタルネイティブ世代の感覚を味わえた。

デジタル玩具やロボットが集まった「SX CREATE」。会場内では多くの子どもたちがデジタル玩具などで遊んでいた。

トレードショーとピッチイベント 日本勢の顔ぶれは?

トレードショーでは、昨年に続き日本からの出展者が多く参加していた。博報堂は「Prototyping the Future」をテーマに、書くことが快感になる勉強キット「WriteMore」、ミニマリストのための超小型マイコン「8pino」、体の歪みを改善するベルト型デバイス「TANZEN」、whiteが手がけるVRデバイス「Milbox Touch」などを出展。なお、「Milbox Touch」はInnovationAwardsのファイナリストに残っている。

博報堂アイ・スタジオの出展テーマは「Metamorphic Prototyping」。社会課題に合わせ、プロトタイプを最適な形へと変化させ、新しいプロダクトを生み出すという概念だ。犬と会話できる愛犬専用のウェアラブルデバイス「INUPATHY」や、シャベルにのせた雪の重さとカロリー量を算出するIoTデバイス「Dig-Log」を展示した(詳細54ページ)。

TBWA\HAKUHODO\QUANTUMは、Panasonicと連携し開発したメンテナンスフリーのIoTデバイスを出展した。1つのスイッチで家の中にある家電を操作できるIoTデバイス「connect anything」と、家の鍵をスマートフォンと連携して管理できるIoTデバイス「JO」の2つである。

経産省の派遣プログラム(Japan METISelection)のブースでは、イノベーティブなリング型デバイスを展開する「16Lab」、宇宙ベンチャーによる人工流れ星プロジェクトを手がける「ALE」、モノからスマートフォンに情報を配信できるスマートプレートの開発販売を行う「アクアビットスパイラルズ」など5社のベンチャー企業が展示していた。ほか、TODAI to TEXASチーム、DCAJ(デジタルコンテンツ協会)、水問題へのソリューションとしてポータブルシャワーデバイスを開発するベンチャー「HOTARU」など各社が出展した。

Innovation Awards では、電通による「Motion Score」もファイナリストに選ばれた。CGキャラクターやロボットの動きを制御するモーションデータを、楽譜の国際規格データ形式「MIDI」に組み込んで記録できる技術だ。トレードショーでは、ヤマハの技術と連携させ、DJによる音楽に合わせてCGモデルがダンスを披露するデモンストレーションも行われた。

なお、SXSW全体を通じて、今年「IoT」という言葉はあまり目にしなくなっている。ネットにつながるのはもはや当たり前。そこでどんな経験を提供できるかを精緻に考え、競うフェーズに入っているようだ。

「Japan House」は、コンベンションセンターから近いバーラウンジを会場に2日間にわたり開催。

2年目を迎えた「Japan House」 NTT、富士通、トヨタらが参加

2015 年にAOI Pro.が中心になり、SXSWのオフィシャルイベントとして発足した「Japan House」は今年2年目の開催。2日間にわたり、コンベンションセンターからも近いバーラウンジを貸し切って開催された。2016年のJapan House のテーマは「人間性の拡張」。ロボットやモビリティなど、人間の可能性を拡張する最新技術にフォーカスしている日本企業の展示やセッションを行った。

NTTでは、大阪大学の石黒浩教授と共同開発したジェミノイド(モデルに酷似した外見を持つアンドロイド)を展示。これまでの日本語の音声認識のものに加え、SXSWのために英語版も急きょ作成して臨んだ。外見や動きはほぼ人間に近い仕上がりで、アンドロイドの正面に座り会話を楽しむこともできる。

富士通は神戸大学大学院 医学研究科の杉本真樹特務准教授との共同出展。杉本准教授はレーザーで網膜に直接描画する画像提示機構を備えるウエアラブル端末「レーザアイウエア」を、世界で初めて外科手術に導入したことで知られる。アメリカのzSpace社の没入型ホログラフィック3D表示システムを今回は展示しており、臓器画像などが空中に浮いたかのように見える「拡張ホログラフィー」は今後の医療業界における革命を感じさせるものだった。また、3Dプリンタにより再現された肝臓は、質感や柔らかさ、血管までもが精密に再現されており、血管が傷つくと出血するようになっている。アメリカの教育現場での活用が既に予定されているという。

トヨタ自動車はパーソナルモビリティ「i-ROAD」による「OPEN ROAD PROJECT」を出展。都市の移動体験をゼロからデザインをすることで、交通渋滞や、駐車場所不足などの課題を解決し、モビリティと都市の未来にイノベーションをもたらすことを目指すプロジェクトだ。

富士通やNHKなど日本企業による出展。

トレードショーの出展者によるピッチイベントでは、各社が工夫を凝らしたプレゼンテーションを行った。

自治体からは、奈良県橿原市がブースを出展。橿原市の橿原神宮は、昨年きゃりーぱみゅぱみゅが登場する音楽イベントの舞台となったことで注目を集めた神社である。伝統工芸や忍者体験などができる「日本の寺子屋」を紹介した。

SXSWインタラクティブ代表のヒュー・フォレストが今年あらゆるセッションで強調していたのは、「SXSWはコミュニティである」というメッセージだ。世界からテクノロジストやギーク、アーリーアダプターらが新しいアイデアを持ち寄り、議論する壮大なコミュニティがSXSWだという。今後、社会の進化はテクノロジーの進化とこれまで以上に密接に同期していく。その中で、世界の専門家たちが集い、知見をアップデートするSXSWの重要性はさらに高まっていくだろう。

大阪大学の石黒浩教授のジェミノイドと会話するSXSWインタラクティブ代表のヒュー・フォレスト。

神戸大学大学院 医学研究科の杉本真樹特務准教授が開発した、3Dプリンタにで出力された肝臓。質感や柔らかさもリアル。

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