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企業を進化させる IoTのクリエイティブ

アナログ黒板を“半分だけ”デジタル化する黒板アプリ

「Kocri」サカワ×カヤック

ICT化が進む教育現場で、その流れに取り残されてきたのが “ 黒板” だ。そのなかで、黒板を100年以上つくり続けてきたサカワと面白法人カヤックがタッグを組み、黒板に新たなイノベーションを起こそうとしている。

面白法人カヤック ディレクター 深津康幸さん

電子黒板はなぜ使われないのか そこに新製品のヒントがあった

「Kocri(コクリ)」はスマートフォンからプロジェクター経由で動画や画像を黒板に投影する教育現場用のアプリだ。キャッチコピーは“ハイブリッド黒板アプリ”で、普段通りに黒板を使いながら、電子黒板の長所をプラスできる点が売りだ。例えば、Kocriで黒板に音楽の五線譜を投影すれば、五線譜はそのままに、チョークで音符を何度も書いたり消したりできる。

使用の際に必要なものはKocriをダウンロードしたスマートフォン、プロジェクター、Apple TVの3点のみ。授業前にあらかじめ教材データをKocriアプリへ移行しておき、教室ではApple TVとプロジェクターをケーブルで繋いで使用する。アプリは無料版とサブスクリプション課金の有料版(月額600円、年額6000円)があり、有料版は全機能の使用が可能になる。

Kocriを開発したのは老舗黒板メーカーのサカワと面白法人カヤックの2社。このアプリが生まれた背景には、教育現場ではICT化が進んでおり、電子黒板も導入されているが、実際には使われていないという現実があった。サカワから依頼を受ける形でこのプロジェクトに携わったカヤックディレクターの深津康幸さんは「従来の電子黒板は使い勝手がよくない、機能習得に必要な時間を先生がとれないなどの理由で現場で受け入れられる製品は少なかったんです」と話す。そこでサカワは長年、板書の教育をサポートしてきた経験を生かし、現場の先生にも使い続けてもらえる電子黒板を自ら作ろうと決断する。サカワの東京支店 常務取締役の坂和寿忠さんは、以前からさまざまなWeb系制作会社をチェックしており、カヤックのWebフォームに自ら「現場の先生に使われる電子黒板を一緒に作りませんか?」と問い合わせを送った。こうして新たな電子黒板プロジェクトがスタートした。

ミニマムな設備と投資で授業をスマート化する

サカワがカヤックを選んだ理由の1つは、デジタルとアナログのバランス感覚だ。その頃、深津さんが所属するチームは三井不動産レジデンシャルの「2020 ふつうの家展」(未来の住宅をイメージした展示イベント)や「ダンボッコ」(ダンボールとスマートフォンを組み合わせて遊ぶままごとおもちゃ)など、ハイテクに振り切ったものではなく、アナログのテイストを交えつつ、半歩先の未来を形にするような企画を行っていた。「問い合わせの内容を聞き、二つ返事で『やります!』とお返事しました。早速、電子黒板について調べてみると、操作が複雑だったり、余計な機能がたくさんついていたりして、とにかく使いづらいと感じました。まずはどんな機能があったら、既存の電子黒板よりも使われるものになるかアイデアを出し合ってみました」と深津さん。さらに出したアイデアを持って、実際の授業を見学したり、現場の先生にヒアリングをした結果、アイデアの多くは、実際の授業には必要とされないことがわかった。いかに先生の負担を減らし、生徒の集中力と学習意欲を高めることが重要だと気づき、機能を絞っていった。

ヒアリングを通じて、先生が電子黒板に求めているのはシンプルな機能だけということがわかった。それをヒントに、簡単に教材を読み出せたり、黒板消しで消えないデジタルの線を引けるようにしたり、従来の板書の授業を便利にする機能のみを搭載してプロトタイプを制作した。この段階では現在のようなアプリではなく、赤外線センサーつきのプロジェクターと電子黒板をセットにしたハードウェア製品だった。

このプロトタイプをサカワ×カヤックによる「みらいのこくばんプロジェクト」として2014年5月に教育ITソリューションエキスポでお披露目したところ、現場の先生から「これなら簡単に使える」と大きな反響を得た。「想像以上の反響で、製品化を決めたのですが ...

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