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楓セビルのアメリカンクリエイティビティ NOW!

女性エンパワーメント広告に着目した新しい広告賞

楓セビル



「First Moon Party」。女性の生理用品のオンライン・サブスクリプション・ビジネスを展開するHelloFloは、大胆にも女性の生理をテーマにしたCMを制作。生理を迎えることは恥ずべきものでも、隠すべきものでもないことを、ユーモラスに、しかし効果的に伝えている。

米国では、ヒラリー・クリントンが米国初の女性大統領になろうと、果敢な選挙運動を続けている。一方、マディソン・アベニューでは、JWTの女性コミュニケーション部長が、自分のボスを性差別者、人種差別者として訴えるという事件も起こっている。女性のエンパワーメント(力を持つこと)が感じられる昨今である。

社会を写す鏡である広告も、この動きに無関心ではない。女性の地位を向上させようという動きが徐々にではあるが、しっかりとした足取りで、広告表現の世界にも姿を見せてきている。例えば、カンヌライオンズでも、昨年から「Glass Lion」という部門ができ、性差別や偏見を打ち破る広告に賞を与えている。

これらに拍車をかける動きが米国でも始まっている。シーノーズ・メディア(She-Knows Media)という女性のライフスタイルをテーマにしたオンラインメディアカンパニーが創設した「フェミバタイジング賞」(Femvertising)がそれである。同社のマーケティングの責任者であるサマンサ・スケーによると、“フェミバタイジング”とは、フェミニズムとアドバタイジングを合体させた造語。「男性と女性は同等の権利と機会を持つべきことを主張する運動がフェミニズムだがフェミバタイジングは、女性の地位を向上させるイメージ、メッセージ、タレントが登場している広告のこと」と定義している。「ここ数年、女性のエンパワーメントをテーマにした広告がたくさん登場しています。このトレンドをメディアでのディスカッションのテーマにしたかった。フェミバタイジング賞はそのための手段です」と語っている。

生活者の投票を得て作品を選出

最初のフェミバタイジング賞は、昨年の7月。シーノーズ・メディアが数千人の女性ブロガーを集めて開催した「#BLOGHER15:Experts Among Us」で発表された。同賞の選出方法は少し変わっている。全世界から集まった600余のエントリー作品の中から最も良いと思われるものを数社の企業に推薦してもらい、生活者の投票を経て、その中から入賞作品を選んでいる。作品を選んだのは、The Huffington Post、フォーブス、アドウィーク、ピンタレストなど。推薦作品はユーモア、インスピレーション、ネクスト・ジェネレーション、そしてソーシャル・インパクトの4つのカテゴリーに分けられている。ユーモア部門では、女性生理用品のオンライン・サブスクリプション・ストア Hello Floが作った「FirstMoon Party」。インスピレーション部門ではラム・トラックの「Courage Inside」(内なる勇気)、ネクスト・ジェネレーション部門ではAlwaysの「Like a Girl」、そしてソーシャル・インパクト部門では、ダヴの「Speak Beautiful」が入賞。

「First Moon Party」は、ケイティというトゥイーン(Tween:8~12歳の子ども)が主人公。友だちがみな月経を迎えているのに、自分だけまだ来ないことを気にして、赤いマニュキュアを生理用品に塗って「ママ、フロー(月経)が来たわ!」と嘘をつく。母親はマニュキュアが塗られた生理用品を見てすぐそれが嘘と気づく。嘘をついた娘を懲らしめるために“First Moon Party”を開く。すでに月経を経験しているケイティの友だちや隣人、親戚などを招いた盛大なパーティだ。そんなことになるとは思ってもいなかったケイティは、生理用品で装飾されているパーティ会場でタジタジする。たまらなくなって、彼女は月経の話が嘘だったことを母親に告白。それによって機嫌が直った母親は、棚からヘローフロー社の月経用のスターターキットを取り出し、ケイティに手渡す。「本当に来た時にはこれを使いなさいね」と、優しくケイティを抱きしめる。

かなり個人的なことであり、あまり公にはしない最初の月経を底抜けに明るく、ユーモラスに描いているこのCM。若い女性の月経に対する考えを変え、それが祝福すべきものだとオープンに明るく伝えている。一夜のうちにYouTubeで3000万回のヒットを記録した「First Moon Party」は、斬新なクリエイティブとして、この賞の枠を飛び出した秀作でもある。

インスピレーション部門で入賞したフィアット・クライスラー社のラム・トラックの「Courage Inside」は、これとは反対に、女性の内に秘められた勇気を伝えたもの。「女は冒険をしない」という女性に対するステレオタイプ的イメージを変える力強い表現だ。

馬を飼育する女性、山のように高い波に乗るサーファー、氷山を登る女性、子どもを抱えた母親、女性兵士、遠距離水泳に挑戦するスイマーなどのイメージにかぶせて、質問が繰り返し問いかけられる。「『あんなこと、私には絶対にできないわ』と思ったことがありますか?『あんな山には絶対に登れないわ』、または『あんな挑戦にはとても勝てないわ』と思ったことは?(中略)でもできるのです。あなたの中にはすでに勇気が内在しているのですから」。イメージの一つとして子どもを抱いた母親を登場させたのは ...

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