クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第85回目は、smbetsmbの新保慶太と新保美沙子さんに、仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『野生の思考』
クロード・レヴィ=ストロース(著) 大橋保夫(訳)(みすず書房)
現代的な生活の中で、便利という感覚は不安定や資源の有限性といった自然界に本来備わる仕組みを、知恵で覆うことで日常を平穏に過ごせる状態と感じます。一方で自然界にある不安定さや、頻繁に訪れる資源の欠乏など、知恵を絞り乗り越えようとする壁にこそ安定した生活を生み出す創造力の源があると思います。豊富な資源や手段に溢れかえる日常で、創造力の源となる不安定や有限性を意識することは多くないと感じるからこそ、人が求める欲求の満たし方や、その結果目の前に広がる人が作り出す環境の美しさとはどうあるべきなのかといった問いを考えるとき、必ず立ち返る一冊です。「つくる」という仕事に携わるうえで、なにをつくるかそれ以前に、その理由や根拠を求める際、前提として「いかに」考えるかの共有に時間をかけなければならないと感じています。素材や手段をどこに求めるのか、どこからつくり始めるのか、またどこまでつくり上げるのか、不安定さの剥き出しになった部分がときに、技術やサービスで覆われ尽くされた状態より居心地の良さを生み出すことがあるのではないか。同時に生産と消費のバランスを適度な状態に保つきっかけになるのではないか…考えは尽きません。
『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』
アンドレ ブルトン(著) 巖谷國士(訳)(岩波書店)
ものが持つ機能を無意識に狭く捉えていることがあります。ひとがものに付与し既知のものとして認識された機能が予め付随していたかのように思い込んでいるのです。一見して思考や伝達の機能を剥がれ、宙に浮いたような言葉がオブジェのような輝きと美しさを放つことがあります。巧みに選びとられた所与のものとしての言葉が ...