現在オンスクリーンメディアに軸足を起きながら、幅広い分野で活動するアートディレターの坂本政則さん。紙とWebも、どちらの経験も持つ坂本さんに、オンスクリーンならではのアートディレクションについて聞いた。
DELTRO 坂本政則(さかもと・まさのり)
DELTRO代表。アートディレクター/デザイナー。1972年静岡県生まれ。1999年よりフリーランスとして活動。2009年にテクニカルディレクター・プログラマーの村山健とDELTRO設立。代表作に「Intel® TheMuseum of Me」、アプリ「Honda Road Movies」、「Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2016 S/S・A/W」、KDDI au「驚きを、常識に。」、「ウェブ電通報」など。「au INFOBAR iida UI用欧文フォント」などフォント開発の実績も多数。
体験全体を時間軸で捉えて設計する
アートディレクターの役割とは「ターゲットに対して、より明確で、より強度のある視覚伝達を目指し、より機能するデザインを追求すること」だと僕は考えています。それ自体はこれまでと全く変わっていませんが、オンスクリーンではデザインすべきモノのサイズが可変であったり、コンテンツ自体がエディトリアル的であり、映像的であり、ゲーム的であったりします。世の中のあらゆるコンテンツと言われるモノがおおむね内包できてしまうパッケージなのです。
また、オンスクリーンコンテンツには複数の“ 時間軸”があります。表示順序、挿入演出としてのアニメーション、ユーザー操作と読み込み時間までも考慮しなければなりません。さらに重要なモノとして、操作を伴うヒューマンインターフェイスが加わり、ビジュアルデザインとの一貫性を配慮したヒューマンインターフェイスデザイン、タイプディレクション、ピクトグラム設計、カラー設計を施し、必要な時に過不足なく、空気のように機能するといった、美しさや使い心地のよさが求められます。
しかしこれらすべてが、ターゲットユーザーにとっては「ただの印象」にすぎません。ですから、体験全体を時間軸のあるストーリーと見立て、各接触ポイントで最適な設計を行う必要があります。これは、アートディレクター/デザイナー/いちユーザーとしての主観に加え、ターゲットユーザー/非ターゲットユーザーとしての不特定多数の客観的な視点を意識し、見る/知る/理解する/体験する/感じるといった人の行動原理を考えながら設計します。アイデアを自分事化して考えて、ユーザーが人に伝えたくなるようなものをつくらないと、世に出してもよい結果にはつながりません。
これまでのビジュアルデザインに加えて、アートディレクターが仕事において見なければならない範囲は、オンスクリーンへの介入により、さらに広がります。表現のフィールドを多様化すれば、おのずとチームの規模も大きくなるので、ディテールのレベルまで把握し適切であるか?これらディテールが渾然一体となった全体で捉えたとき、目指す世界観を演出できているか?など、より俯瞰的な視点が求められるようになっています。とはいえ、アートディレクターによるビジュアル思考からの、世界設定やストーリーを創造する/組み立てることが最も大事だという点は、今も昔も全く変わらないと思います。
01 「Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2016 A/W」キービジュアル
クリエイティブディレクション、アートディレクション、グラフィックデザインを手がける。ファッションにおけるクリエイションの過程を独自のアプローチで視覚化。
紙とオンスクリーン こだわりどころの違い
僕は紙もオンスクリーンも両方のデザインを経験していますが、両者ではこだわる部分を明確に分けています。紙では自在にコントロールできる文字組版も ...