異業種コンテンツに飛び込む武器「パイロット」の可能性
映画や番組の制作前に試験的につくられる短い映像「パイロットフィルム」をご存じでしょうか。名作映画から最新作まで、そうした貴重な映像を集めた映画祭「渋谷パイロットフィルムフェスティバル」が、2024年12月に開催されました。発起人を務めたのは、Whateverの川村真司さんと、CHOCOLATEの栗林和明さん。
青山デザイン会議
人と人、人とモノ、人とコンテンツのつながりで情報が広がる現在、広告コミュニケーションやクリエイティブにとってSNSは切っても切り離せない存在になりました。ソーシャルメディアでの拡散やシェアを狙ったデジタルコンテンツを、広告やPRとして積極的に活用する企業や自治体が昨年から増えはじめています。話題にしたくなる動画コンテンツで事件化し、リピーターを増やしたり、YouTube再生回数や海外からのアクセス数を競い合ったり。拡散(バズる)力が求められ、それが常識となっています。しかし、本当にそれでいいのでしょうか?話題先行で打ち上げ花火のように一瞬で終わり、結局のところ商品の売上に貢献できない。ターゲット以外に拡散させても意味がない…など、その風潮に疑問が生じはじめています。拡散させた次のステップをどうするのか?メディア戦略とクリエイティブを一体として考える中長期的な視座、ブランディングの設計が問われているように思います。そこで今月号の青山デザイン会議では、ソーシャルメディアとクリエイティブが親和するポイントや、効果的なクリエイティブについて電通の篠原誠さん、BBDO J WESTの眞鍋海里さん、SIXの本山敬一さんが話し合いました。
眞鍋▶ BBDO J WESTでプランナーをしています。3年前につくった北九州市のタイヤ通販会社オートウエイのWebムービー「雪道コワイ」が国内外で話題になり、その仕事からバズ施策のオファーが多くなりました。最近では電通さん、PARTYさんと一緒にサントリー集中リゲインのバイラルムービーを手がけたり、それ以外にも他の広告会社や外部のクリエイティブブティックと仕事をする機会も増えまして、福岡と東京を行き来しています。
篠原▶ 外部との仕事はBBDO公認ですか?
眞鍋▶ 公認でやらせてもらっています。
本山▶ 自由でいいですね。僕はもともと電通テックでWebプロデューサーをしていました。当時のWeb業界は分担制ではなく、企画からディレクション、撮影まですべて受け持っていました。こんなに全部やるなら広告会社がいいな、と博報堂の門を叩きました。アプリやスペシャルサイトなど、デジタルコンテンツをつくっていましたが、最近は世の中の流れもあり、映像が最終アウトプットになることが増えています。3年前、同じ部署にいたクリエイティブ6人でSIXを設立しました。
篠原▶ 僕は電通に入社して21年間ずっと、クリエイティブの部署にいます。Webムービーは、森永アロエヨーグルトやグロンサンの動画を実は10数年前につくりました。テレビCMから「続きはWebで」という誘導が出はじめた頃で、当時は通信環境が悪くて、視聴中フリーズすることが多かった。まだテレビCMのオマケという感覚で、KPIという概念すらなかった。これでモノが売れるところまではいかないと思っていましたが、時代は変わるものです。
本山▶ 当時は、YouTubeやSNSみたいな自社メディアがなかったので、オーガニックに広がるというより、広告を見せるために広告を打つことが主流でしたね。
眞鍋▶ 今やネットの動画広告市場は飛ぶ鳥を落とす勢いで伸び続けています。
篠原▶ そうですね。僕はそれでも当分はテレビはもっとも強いメディアであり続けると思います。ただ、テレビと同列にデジタル系やコンテンツ系、リアルイベント系など多くの選択肢が出てきた。それぞれヒットするポイントが違うので、個々のアイデアを考えなければいけなくなりました。さらにどれとどれを組み合わせたら面白いかなど考えることが増えましたね。
眞鍋▶ 今はどこのクライアントさんもWeb動画施策をやりたがっています。
篠原▶ 「バズらせたい」という風に声がかかるんですか?
眞鍋▶ そうですね。でも、バズは結果論であって保証はできないもの。まずそこの認識を共有してから、提案させていただいてます。
本山▶ 僕らの仕事の基本はソリューションを提供することで、それを提供した結果バズ、という話ですからね。広告主によく言うのは、バズるだけでいいのなら、1000万円の予算を300万円ずつ若手の映像クリエイターに渡した方がいい。バズる確率は3倍になります、と。
篠原▶ 確かにその方がバズる確率は上がりますね(笑)。
本山▶ パンダがくしゃみをしただけで1億3500万PVを超える時勢です。バズるだけでいいならパンダの動画でもいい。だけど、ブランドやサービスのためのソリューションが必要なのだから、バズれば何でもいいってわけじゃない。
眞鍋▶ バズの先にあるものをしっかり見定める必要があると思います。バズの目的は何なのか?(1)話題になる(2)認知が上がる(3)商品が売れる(4)世界に広がる…など。本来はこういったゴールがあって、バズは副次的なもののはず。最近は、そこがすっぽり抜け落ちている話がたくさん見受けられます。大切なのは、しっかりと広告主の課題を抽出し、「What to say?(何を伝えるか)」の精度を高めることかと。それから、ユーザー目線で「How to say?(どう伝えるか)」を探り、バズを引き起こすアウトプットを完成させる。その考え方を、プレゼンではよく話をしています。
本山▶ 拡散するかどうかはお題で8割決まると思うんです。Google GlassのCMなら、極論を言えば、当時であれば誰がどんなものを作ろうがかなり話題になる。僕は単純にブランドに恵まれているだけのような気がしています。
篠原▶ そんなことはないでしょう。本山さんのGoogleのコミュニケーションはディテールがつまってました。どのように制作されたのですか?
本山▶ Google自体のブランド力が強いですから、初音ミクやドラクエ、ポケモンなど、いろいろ掛け合わせると跳ねやすくなります。ただ、そこではファンの心をグッと掴めるように細心の注意を払います。特に初音ミクはネットカルチャーそのものだったので、炎上しないようにとても気を遣いました。着火点をどこにするかを決めることが重要だと思うんです。ファンが味方になってくれて、拡散したくなるようなものを徹底的につくり込めば打率は高くなる。そのために、オンラインからオフラインまで記事を片っ端から読んだり、コミケに参加して、文化への理解を深めました。だけど「バズる」を語るなら、篠原さんは3人の中で一番バズっていますよね。au三太郎はもちろん、隠れキャラ「一寸法師」の仕込みは一体いつから?
篠原▶ 僕は伏線が大好きなんです。三太郎はシリーズで1年間続けられることがある程度決まっていたので、1年後に「一寸法師がずっといたよ」と種明かししたら、「え?本当」と騒いで話題にしてくれるだろうと。秘密があると言いたくなるのが人情。だから社長含め数人にだけこっそりプレゼンし、了承を得た後は、スタッフはプランナーのほか最小限のメンバーにしか伝えず、秘匿にしていました。ところが3カ月を過ぎた頃に「一寸法師がいる」とツイートがあったんです。「もうバレた!」と焦りました。でも、その後しばらく何もなかったので胸を撫で下ろしていたら、写真を上げた人が出て、止まらなくなりました。同僚からPRが成功したねと羨ましがられますが、本音を言うと早すぎたんです。
本山▶ CMはある期間流れたら消費されますが、篠原さんのau三太郎は、YouTubeにアーカイブされて、視聴者が見返す前提で作られている。まさに21世紀型のCMです。
眞鍋▶ 動画を見た後に何かを語りたくなるように設計するのは僕も好きで企画します。「雪道コワイ」の1年後に「ラバー」というミュージック・ビデオをつくったのですが、これは「雪道コワイ」のエピソードゼロという設定でして …