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青山デザイン会議

第一線で活躍する30代、これからの広告をどう変える?

石原 篤 × 富永勇亮 × 保持壮太郎

ここ数年、広告・コミュニケーションは多様化し、その領域は広がる一方です。それに伴い、クライアントから求められるクリエイターのスキルや手法、発想も変わってきています。「広告は時代を写す鏡」と言われますが、まさに時代、社会と共に変化をしており、ある世代に向けたメッセージにおいては従来の手法では対応しきれないものも出てきています。また、広告界にいる20代前半の若い世代の広告やコミュニケーションに対する考え方も変わってきていると聞きます。その中で、現場で活躍する30代半ば~後半のクリエイターはかつての広告・コミュニケーションの基礎を学び、その手法を経験しながらも、新たな道を切り拓いてきた世代です。かつても知っている、そして新しいことも知っているその世代のクリエイターたちが、これからの広告・コミュニケーションの新しい道を作っていくのではないかと、編集部では考えています。そこで、今回の青山デザイン会議では、いま現場で領域を超えて活躍している、博報堂ケトルのクリエイティブディレクター・石原篤さん、dot by dot inc.のCEO/プランナー・富永勇亮さん、電通/Dentsu Lab Tokyoのコピーライター/プランナー・保持壮太郎さんの3人が「これからの広告・コミュニケーション」について考えました。

行列を横目で見る人が増えてきた

石原▶ 2002年に博報堂へ入社し、SP(セールス・プロモーション)部門に配属され5年半所属。その後、2007年の秋から博報堂ケトルのメンバーに加わりました。もともとノンクリエイティブな僕がどうやったら勝ちにいけるかを考えた時、SP時代に向き合っていたキャンペーンやイベントで培った知見が自分の強みになると思っていて、今はSP発想×クリエイティブを軸に仕事をしています。

富永▶ 僕は広告とデジタルの領域でコンテンツを制作する会社を設立してもうすぐ2年になります。最近、NHKの「データなび」という番組にコンテンツを提供しました。紅白歌合戦過去65回の歴史で歌われた約3000曲のデータを基に、各年代で最も使われる言葉を抽出して作詞、自動作曲ソフトを駆使して独自に作曲するもので、各年代のヒット曲っぽい楽曲をAI(人工知能)が作ります。広告を通じたコンテンツを積極的に作っていますが、広告の仕事から派生してさまざまな領域で広がっています。

保持▶ 工学部出身で、学生時代はWeb制作会社でサーバーサイドのプログラムを書いていました。電通入社後はコピーライターとして、古川裕也、澤本嘉光、髙崎卓馬など広告界の有名人が勢揃いしていた「第2クリエーティブ局」に配属されて、そこで10年ちょっと経験を積んできました。その一方で、クリエーティブ・テクノロジストの菅野薫さんが代表を務めるDentsu Lab Tokyoにも所属し、デジタル領域の仕事もしています。

石原▶ コピーライターの修行期間ってどれくらいでしたか?

保持▶ いまも修行中です。2晩くらい徹夜して書いた企画が先輩に秒殺されることがいまだにありますよ。

富永▶ コピーライターの世界って、なぜそういう難行苦行なんですか?

保持▶ 時代にそぐわない面もあるかもしれませんが、コピーライターの教育システムって実績がありますからね。優れたコピーライターをこの業界が輩出し続けてこられたのは、先達が苦行を乗り越えてきたからです。教育システムとしてうまく機能し続けてきたからこそみんな行列に並ぶ。だけど、隣の山に綺麗な花が咲き始めたもんだから、僕の前後に並んでいた人がそちらに行って帰ってこなくなるんです。それこそケトルさんのように行列とはまったく違う方向からいいものを作る人たちが活躍しているのを目の当たりにすると、横見で辺りを見回す人が増えている気がします。

石原▶ 富永さんに師匠はいるんですか?

富永▶ いません。大学では都市政策論を勉強していて、京都・西陣で町家の再生をテーマにフィールドワークしていました。インターネットはその時に出会いました。建築分野への就職も考えたのですが、40代が若手と呼ばれるほど建築業界は下積みと経験が求められる。それでインターネットを生業にしようと思い、大学の同級生とデジタル制作会社を作りました。その当時は電通も博報堂も知らないひよっこで、本当に実践で学びました。

保持▶ 広告を取り巻く環境が変わっていく実感はありつつ、もっとドラスティックに全体が変わるかと思っていたけれど、案外そうでもない。いまだに行列に並ぶ人は後を絶ちません。昔は行列がいくつかしかなかったから、そこに並べば良かったけど、今は選択肢が多様化しています。それは良いことだけど、どこに並ぶべきか若手が迷子になってしまっている。

石原▶ 2000年代の中期ぐらいまでは、コピーライターの行列、マーケの行列、SPの行列…と、行列の種類は多くても入り口と行き先、つまり専門性が明確でした。今は新人の時から何をやってもいい環境が与えられています。大変だろうなと思います。

保持▶ 富永さんはクリエイターのマネジメントもなさっているので、問題意識があるのではないかと思うんですけど、世代間のギャップについてどう思われますか?

富永▶ 僕らの世代を境界線にして、上下の世代を分けているのはインターネットという人類史に残る発明です。僕らはその産業革命を大学生の頃から経験しています。ゲームで育っているので親和性も高く、瞬間的にその利便性や可能性を見出すことができました。その価値を他の世代よりも敏感に察知していたと思うんです。僕らが社会人になった頃、完全にそれがアドバンテージになりました。上の世代は広告からインターネットに行ったけど、僕らは順序が逆なんです。この差は大きいと思います。

保持▶ 僕らの下のデジタルネイティブ世代との差は何だと思われますか?

富永▶ 彼らはPCやインターネットは作るものではなくて、コミュニケーションが土台です。僕らのアドバンテージはその両方を知っていることじゃないかと思います。

石原▶ 上の世代には、インターネットを怖がって避けている人も多いですよね。「僕はわかんないから」と言いきっちゃう。

保持▶ 恐怖は敵対心にもつながりますから、上と下の間で意識の差ができたりします。恐怖は克服しないといけないですよね。

    ATSUSHI ISHIHARA'S WORKS



    「忍者女子高生」(サントリー)
    サントリー C.C.レモンのWeb動画。熱海を舞台にした二人の女子高生による追走劇。800万回に迫る再生回数を広告なしでオーガニックに成し遂げるなど、PR要素を散りばめた話題の動画。


    「StarFes.」(JT SevenStars)
    JTのセブンスターが特別協賛し8000人を集客した音楽フェスを総合プロデュース。最高の音楽を、最高の環境で楽しんでもらう試みとして、スモーカーのためのスペシャルエリアやラウンジなども設置。


    「相鐵」
    茨城の鋼材加工業のリブランディング。コンセプトは「相鐵の仕事を、スポーツに。」CI・VIとともに工場・事務所などの労働環境、業務フロー、評価システムなどを改革した。


    「niko and … TOKYO」(niko and … )
    ファッションブランド「ニコアンド」のグローバル旗艦店の開発。「45日で生まれ変わるお店」をキーワードに新しいライフスタイルショップを展開。


    『これからの「売れるしくみ」のつくり方』(グラフィック社)
    買い手・売り手・つくり手をつなぐコミュニケーションで、モノやサービスの新しい売り方を考える、これからの広告コミュニケーションのあり方を指南。


    「VV magazine」(ヴィレッジヴァンガード)
    石原さんが編集長をつとめるヴィレッジヴァンガードのフリーペーパーマガジン。

多様化する広告・メディアの波

富永▶ 最近は数千万円規模のWebキャンペーンの仕事が減った印象です。以前は人を集めるためのプラットフォームが増え、写真投稿の仕組みやSNS機能などを自前でゼロから作り、ストリーミング専門のサーバ-会社と契約しなくちゃ映像を流すことも出来ませんでした。今はYouTubeやTwitter、Facebookと連携させればよくなって、システムやプラットフォーム構築に注力することが減りました。

保持▶ かつて数百万とかしたストリーミングも今や0円で出来る。そうなると、結局価値があるのはどういうアイデアとクリエイティブをのせるかという話になります。ところでデジタルコンテンツの開発案件は数百万円の予算規模で、頭をひねりながら細々と手作業でやることも珍しくありませんが、一方でトラディショナルな広告制作の方は、昔よりは下がったとは言えまだまだ予算規模もデカいです。マスメディアの価値を十分理解しているつもりですが、ふと不思議に思うことがあります。

石原▶ クライアントのオリエンの仕方が5年前ぐらいから変わったと思いませんか?昔はオリエンシートにメディアごとの予算配分が書かれていたけど、今は総予算をポーンと渡されてアロケーション(配分)から始める仕事が増えました。

富永▶ ケトルさんはよくやっていますよね。

保持▶ 「手口ニュートラル」というケトルさんの考え方は非常に共感できます。手法にこだわっていたら、いつまでたっても隅っこの仕事しかできないし夢がない。マスとかデジタルとか古い新しいとか関係なく、やるからには常に影響力の大きな仕事を目指したいですからね。

富永▶ メディア費にさける予算の差がデカイですよね。10億あれば、マス中心の企画で良いですが …

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